シリーズケアコラボの視点
介護の現場で申し送りが「伝わらない」のはなぜ?チームの連携を深め、業務を円滑にする「3つの視点」と「伝え方の技術」
福祉現場の毎日の業務の中で、多くの時間を占める「申し送り」。
一生懸命伝えているつもりなのに、翌日出勤してみたら「伝わっていなかった」「言った言わないのトラブルになっていた」という経験はありませんか?
「昨日の夜勤者に伝えたはずなのに、日勤帯で対応されていなかった」
「重要な変更点が、パート職員まで浸透していなかった」
こうした連携ミスは、単なる業務上のストレスに留まらず、ご利用者の不利益や、事故につながるリスクを孕んでいます。
24時間365日、絶え間なくケアが続く介護・福祉の現場において、勤務時間の異なるスタッフへ正確に業務のバトンを渡すことは、実は非常に難易度が高い業務です。
ケアの内容だけでなく、事務連絡、行事の準備、ご家族への対応、設備の不具合報告など、伝えるべき情報は多岐にわたります。
限られた時間の中で、情報の優先順位をつけ、相手に過不足なく伝える。
これは個人の「記憶力」や「頑張り」だけで解決できる問題ではありません。
本記事では、介護記録システム・介護アプリ「ケアコラボ」を手掛けるケアコラボスタッフが、多くの福祉事業所様へシステムを提供する中で培った知見をもとに、
申し送りがうまくいかない構造的な原因を紐解き、個人のスキルに頼らずチームの連携をスムーズにする「3つの視点」と「伝え方の技術」について、例を交えながら徹底解説します。
1. 申し送りの目的:すべては「次のアクション」のためにある
まず「何のために申し送りをするのか」という目的を再定義してみましょう。
申し送りが「事実の報告」だけで終わっていませんか?
忙しい業務の中、正確に状況を伝えようと努力するあまり、申し送りが結果として「事実の共有会」のようになってしまうことはありませんか?
- 「〇〇さんが10時に転倒しました」
- 「〇〇さんの昼食摂取量は5割でした」
- 「入浴は拒否されました」
これらは間違いなく重要な「事実」です。しかし、これだけを聞いた次の勤務者は、「なるほど、そうだったんですね(として何をすればいいのかな?)」と、具体的な対応に迷ってしまうことがあります。
事実を並べるだけでは、報告者は「伝えた」と思っていても、受け手にとっては「次のケアにどう活かせばいいか分からない」というすれ違いが起きてしまうことがあります。
申し送りの本質は「未来のケア」をつなぐバトンパス
申し送りの真の目的は、過去の報告ではなく、未来の行動を促すことです。
定義するならば「勤務が被らない相手が、迷わず、安全に業務を遂行できるようにするためのバトンパス」と言えるでしょう。
ご利用者の生活は24時間続いています。シフトが変わっても、その方へのケアや支援の方針が途切れてはいけません。「スタッフが退勤した後も、チームが同じ質でケアを継続できる状態」を作ることこそがゴールです。
「逆算思考」で情報を整理する
伝えるべき情報か迷ったときは、「これを伝えたら、相手にどうしてほしいのか?」を逆算して考えてみましょう。
- 転倒した事実を伝えて、相手に観察を続けてほしいのか?(依頼)
- 再発防止策を一緒に考えてほしいのか?(相談)
- 単に記録として知っておいてほしいのか?(共有)
相手の「次のアクション」がイメージできない情報は、今は口頭で伝える必要がない(または、記録に残すだけで十分な)情報かもしれません。この「逆算」のフィルターを通すと、申し送りの質は大きく向上します。
2. 情報を整理する「3つの視点」(依頼・相談・共有)
申し送りで扱う情報は、ケアに関する内容も、事務的な業務連絡も、すべて以下の3つに分類することができます。
話す前に「今から話すことは、この3つのどれか?」を意識し、冒頭で「相談が1件あります」と宣言するだけで、相手の聞く姿勢が変わります。

① 依頼:相手に具体的な行動を求める
「誰が・いつ・何を」すべきかが明確な情報です。もっとも優先度が高く、確実に伝える必要があります。ここで曖昧さを残すと、タスク漏れに直結します。
- ケアの例:
「14時に〇〇さんのバイタル測定をお願いします。午前中に血圧が高かったため、再検査が必要です。160を超えるようなら看護師へ報告してください」
(理由と具体的な判断基準まで添えるとベストです) - 業務連絡の例:
「来月のシフト作成のため、今週中に希望休を提出してください。特に年末年始の希望は早めにお願いします」
② 相談:判断に迷うこと、知恵を借りたいこと
答えを求めるのではなく、「一緒に考えてほしい」「チームで検討したい」というプロセスを共有する情報です。一人で抱え込まず、チームの知恵を集めるために使います。
- ケアの例:
「〇〇さんの拒食が3日続いています。好みの変化なのか、義歯の不具合なのか判断がつきません。食事介助の際に気づいたことがあれば教えてほしいですし、食事形態の変更も含めて意見が欲しいです」 - 業務連絡の例:
「来月の夏祭りの企画担当の件で、ボランティアの手配に行き詰まっています。過去の事例を知っている方がいたら相談に乗ってください」
③ 共有:知っておくことで質や効率が上がる情報
今すぐ具体的な行動は不要ですが、頭の片隅に入れておくことで、ケアの質やリスク管理に役立つ情報です。いわゆる「インフォメーション」です。
- ケアの例:
「今日、遠方から息子様が面会に来られました。ご本人はとても嬉しそうで、穏やかに過ごされています。夕方も話題に出すと会話が弾むかもしれません」
(ケアのヒントとしての共有) - 業務連絡の例:
「リビングのエアコンから異音がしていましたが、業者による修理が完了しました。設定温度は通常通りで大丈夫です」
3. 伝達ミスを防ぐ技術:「事実」と「解釈」を切り分ける
「言った通りに伝わらない」「人によって話が違う」という問題の多くは、客観的な「事実」と、主観的な「解釈」が混ざってしまうことで起きます。
申し送りでは、意識的にこれらを切り分ける必要があります。

「事実」と「解釈」の違い
| 項目 | 説明 | 現場での具体例 |
| 事実 | 実際に起きたこと、観察されたこと。誰が見ても変わらない客観的な内容(数値、発言内容、行動)。 | 「12:00の配膳時、『いらない』と食器を押し返された」「摂取率は0割」「体温は37.2℃」 |
| 解釈 | 事実に基づき、自分がどう感じたか、どう推測したか。経験則や専門知識に基づくアセスメント。 | 「お腹が空いていないのかも」「体調が悪いのかも」「好きなメニューじゃなかったからかも」「わがままだと思う」 |
よくある事例
【悪い例:解釈のみの報告】
「〇〇さん、今日はすごく不機嫌でした。食事も全然食べてくれません」
これを聞いた次の担当者は、「〇〇さんは今日機嫌が悪いんだ」という先入観を持ってしまいます。しかし、本当は「不機嫌」だったのではなく、「歯が痛かった」だけかもしれません。主観的なレッテルを貼ると、ご利用者の真のニーズが見えなくなってしまいます。
【良い例:事実+解釈+依頼のセット】
「昼食の配膳時、『いらない』と食器を強く押し返され、一口も召し上がりませんでした(事実)。
表情が険しく、右頬をさする仕草が見られたので、もしかすると義歯が当たって痛いのかもしれません(解釈)。
夕食前に一度、口腔内の確認をお願いできますか?(依頼)」
このように「事実はこれ」「私はこう考えた(解釈)」を分けて伝えることで、引き継いだ相手もフラットな状態で情報を受け取れます。
「頬をさすっていたなら、義歯じゃなくて口内炎かも?」といった、別の解釈(アセスメント)の余地が生まれ、チームで正解に近づくことができます。
4. 時間短縮の鍵:「口頭」と「記録」のベストな使い分け
「申し送りが長引いて残業になる」「勤務時間内に終わらない」という悩み。
時間が足りなくなる最大の原因は、「すべての情報を口頭で伝えようとしている」ことにあるかもしれません。
人間の短期記憶には限界があります(マジカルナンバー4±1などと言われます)。
数値を早口で読み上げられても、聞き手はメモを取るのに必死で、肝心の内容が頭に入ってきません。これでは本末転倒です。
効率的な申し送りは、「記録」と「口頭共有」の役割分担を明確にすることから始まります。

記録(システム)に任せる情報
「読んでおいてください」で済む情報は、基本的に記録システムに任せます。これらを口頭で読み上げる時間を廃止するだけで、5分〜10分の短縮が可能です。
- バイタル数値、排便回数、食事摂取量(異常値以外)
- 定型的な処置の実施記録
- 日中のスケジュール状況
- 全職員向けの周知事項(掲示板機能などを活用)
これらを機能させるためには、「申し送り開始前の5分間は、各自で記録を読む時間にする」といった運用ルールとセットにすると効果的です。
口頭で話すべき情報(重点項目)
対面での時間は、「ニュアンス」や「緊急性」の共有に使います。
- 異常値や特異点: 「血圧はシステム通りですが、普段より脈が飛んでいるのが気になりました」
- 緊急性が高い「依頼」: 「今日中に必ずご家族へ電話連絡が必要です」
- 感情面・精神面の変化: 「文字には書きにくいですが、なんとなく表情が寂しげでした」
- ケアの微妙なコツ: 「移乗の際、いつもより右足に力が入らないようです」
- スタッフのフォロー: 「新人スタッフの〇〇さんが今日初めて入浴介助に入りました。少し疲れているようなので声をかけてあげてください」
「読み合わせ」の時間をなくし、「対話(ディスカッション)」の時間を確保すること。
これが、ICT化を活用した理想的な申し送りの形です。
5. 申し送りを「チームビルディング」の場に
申し送りは、単なる業務連絡の場ではありません。チームの信頼関係を作り、人材を育成する(OJT)大きなチャンスでもあります。
毎日顔を合わせるこの時間をどう使うかで、チーム力に大きな差が生まれます。
「失敗」や「困りごと」を言える空気を作る(心理的安全性)
「ミスをしたら怒られる」「変なことを言ったら笑われる」という空気がある職場では、報告はどうしても「当たり障りのない内容」になりがちです。
しかし、重大事故の背景には必ず29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがあると言われます(ハインリッヒの法則)。
「実は今日、移乗でヒヤッとしたことがあって…」というネガティブな情報こそ、チームで共有すべき情報です。
リーダーや管理者が率先して「相談」を持ちかけ、「実は私もここでの対応に迷ったんだけど、みんなはどう思う?」と自己開示していきましょう。
リーダーの姿勢が、部下の「心理的安全性」を高め、リスク情報が吸い上がりやすい土壌を作ります。
「経緯(プロセス)」の共有が若手を育てる
ベテラン職員と新人職員の最大の違いは、結論に至るまでの「思考プロセス」の深さにあります。
申し送りで「今日は入浴中止にしました」と結論だけ伝えると、新人は「あ、拒否があれば中止していいんだ」と誤解するかもしれません。
- 「なぜ中止という判断に至ったのか」
- 「どんなアプローチを試みたのか」
- 「ご本人のどんなサインを読み取ったのか」
この「検討プロセス(経緯)」を言葉にして共有しましょう。
「AとBで迷ったけど、ご本人の〇〇な表情を見てAにした」という思考の過程こそが、マニュアルには載っていない生きた教科書となり、若手職員のアセスメント能力を養うことにつながります。
ケアコラボで実現する「申し送り」のアップデート
申し送りの質を高めるためには、「個人の伝え方」を変える意識づけと、それを支える「仕組み」の両輪が必要です。
ケア記録システム「ケアコラボ」は、現場の声から生まれた「申し送り機能」を備えており、今回ご紹介した「伝わらない悩み」を仕組み(システム面)から強力にサポートします。
1. 重要事項を見逃さない「ピン留め」と「未読ハイライト」
多くの情報が流れる中で、絶対に読んでほしい「依頼」や重要な「共有」が埋もれない仕組みがあります。
ピン留め機能: 特に重要な申し送りは、最大3件まで画面上部に固定(ピン留め)できます。緊急性の高い情報は、全スタッフが必ず目にする場所に配置できます。

未読ハイライト: まだ読んでいない申し送りは、ピンク色の背景で目立つように表示されます。視覚的に「まだ確認していない」と気づけるため、うっかり見落としを防ぎます。

2. 「既読管理」で「言った言わない」をゼロに
「伝えたつもり」をなくすために、誰がその申し送りを読んだかがひと目でわかる既読管理機能があります。 管理者は未読のスタッフだけを確認してフォローできるため、連絡漏れの不安から解放されます。

3. 「写真・動画」でニュアンスまで正確に伝える
言葉や文字だけでは伝わりにくい「微妙な変化」も、ケアコラボなら直感的に共有できます。
写真・動画の添付: 褥瘡(じょくそう)の状態変化、食事介助の新しい手順、ご本人の表情など、「百聞は一見にしかず」な情報をそのまま共有できます。口頭で長く説明するよりも、1枚の写真や短い動画の方が、はるかに正確でスピーディーに伝わります。
4. 「コメント・リアクション」でチームが繋がる
一方的な報告で終わらせず、双方向のコミュニケーションを生む仕掛けがあります。
- コメント機能: 申し送りに対して「これどういうこと?(質問)」や「了解しました!(応答)」といったやり取りが可能です。
- リアクション: 「いいね」や「ありがとう」をスタンプ感覚で送れます。これにより、心理的安全性が高まり、相談しやすいチームの土壌が育ちます。
5. 「メモ機能」で定型文を作り、誰でも「正確・簡潔」に
「具体的」に「正確」に「簡潔」に伝えることは重要ですが、毎回ゼロから文章を考えるのは職員にとって大きな負担です。 ケアコラボの「メモ機能」によく使う文章や例文を登録しておくことで、実質的なテンプレートとして活用できます。
- 受診報告用の型: 医師からの指示、薬の変更、次回の受診日などを項目化してメモに登録。
- 事故報告用の型: 発生状況、応急処置、ご家族への連絡有無などを漏れなく記載できるように登録。
これらをコピー&ペーストして使うことで、新人職員でもベテランと同じように申し送りが作成できるようになり、読み手にとっても「どこを見ればいいか」が分かりやすくなります。
6. 「記録」と「申し送り」の明確な使い分け
情報が埋もれてしまう原因の一つは、すべての情報を「申し送り」に詰め込んでしまうことにあります。 ケアコラボのユーザー様は、以下のように機能を明確に使い分けることで、情報のメリハリをつけています。
- タイムライン(ケア記録): 「事実の蓄積」として活用します。ケアの実施記録、バイタル、食事量、排泄などの日々の情報はこちらに保存します。
- 申し送り: 「重要な共有・依頼」として活用します。全員が必ず目を通すべき重要事項や、次のシフトへの具体的な引き継ぎ事項をここに書きます。
このように、「流れる情報(記録)」と「見てほしい情報(申し送り)」の場所を分けることで、本当に重要な情報がスタッフの目に留まりやすくなり、チームの連携ミスを未然に防ぐことができます。
「伝える」から「伝わる」へ。 そして「報告」から「チーム連携」へ。
申し送りの改善を目指したい、職場環境を改善したい方は是非お問い合わせください。

まずは明日の申し送りで、発言する前に「これは依頼か、相談か、共有か?」を少しだけ意識してみましょう。
それだけで、あなたの言葉は相手に届きやすくなり、チームの連携は確実に変わり始めるでしょう。