シリーズケアコラボの視点
【福祉・介護】事故報告書の書き方ガイド|状況共有/原因分析/再発防止策の考え方
「事故報告書の『発生状況』欄、どう書けばいいのかわからず筆が止まってしまう」
介護の現場において、このような悩みを抱えていませんか?
日々のケア業務に追われる中で、事故報告書の作成は大きな負担になりがちです。
しかし、事故が発生した際、施設内部での共有はもちろんですが、重大な事故については自治体への報告義務があります。
その際に作成する事故報告書は、公的な文書としての正確性と客観性が求められます。
また、事故報告書は決して「個人の責任を追及する始末書」ではありません。
未来の事故を防ぎ、利用者様と職員、そして事業所を守るための「貴重な公的記録」であり、ケアの質を向上させるための「情報資産」です。
本記事では、介護記録システム・介護アプリ「ケアコラボ」を手掛けるケアコラボスタッフが、多くの福祉事業所様へシステムを提供する中で培った知見をもとに、
多くの自治体で採用されている「標準様式(厚生労働省推奨フォーマット)」をベースに、行政担当者やご家族が読んでも状況が映像として浮かぶ書き方のコツを、豊富な例文とともに徹底解説します。
事故は故意でなくても起きうるものです。
そうした際に、少しでもケアコラボが現場の負担軽減を担えれば幸いです。
第1章:なぜ書くのか?自治体への報告義務と3つの目的
事故後の記録を書くことは、精神的にも負担の大きい作業です。
望んで起きたことではないからこそ、思い出すのがつらい場面もあるでしょう。
それでも、自治体への報告は法的に不可欠であり、現場と利用者さんを守るための重要なプロセスです。
まずは「なぜ書くのか」を正しく理解することが、無理なく、過不足のない記録につながります。
1. 自治体への報告義務(法令遵守)
介護保険事業所は、サービスの提供に伴って利用者に事故が発生した場合、速やかに市町村等の保険者へ報告する義務があります。
報告が必要な事故の基準(一般的例)
自治体によって細則は異なりますが、概ね以下のケースは報告必須です。
- 骨折・出血・縫合が必要な外傷:受診を伴うもの。
- 誤薬:健康被害の有無に関わらず、医師の指示を仰いだもの。
- 離設(行方不明):警察への届け出を行った、または一定時間発見できなかった場合。
- 誤嚥・異食:受診や処置を伴うもの。
- 死亡事故:事故が原因で死亡に至った場合。
※ 注意点:報告が遅れたり、事実を隠蔽したりすると、指定取り消しや効力停止などの重い行政処分の対象となる可能性があります。速やかかつ正確な記録は、事業所の存続に関わる重要業務です。
2. 事実の記録と保存(リスクマネジメント)
人間の記憶は時間とともに薄れ、変化します。
万が一、ご家族とのトラブルや訴訟問題に発展した場合、裁判等において「記憶」は証拠能力として弱く、事故直後に書かれた「記録」こそが最も信頼性の高い証拠となります。
- 職員を守る情報として
「職員が目を離したからだ」と過失を問われた際、「適切な巡視を行っていたこと」「手順通りの介助を行っていたこと」が記録に残っていれば、職員の正当性を証明できます。 - 説明責任(アカウンタビリティ)
ご家族に対し、「いつ、どこで、何が起きて、どう対応したか」を誠実に説明するための資料となります。
3. 再発防止(サービスの質向上)
これが最も本質的かつ前向きな目的です。
個人の不注意を責めても事故はなくなりません。事故報告書は、以下のような「仕組みの改善点」を見つけるための情報源です。
- ヒヤリハットでは見えなかった「環境の危険箇所」
- 無理のある「業務フロー」
- 利用者様の「状態変化のサイン」
これらを組織全体で分析することで「誰がやっても事故が起きにくい仕組み」への改善が進みます。
第2章:標準様式準拠「状況・状態・対応」欄の書き方
標準様式の中で特に記入が難しいのが「発生時の状況」を記述する欄です。
ここでは「読み手に状況を想像してもらう」ための3つの重要項目について、書き方のポイントを解説します。
1. 発生時状況・事故内容の詳細
【考え方】「文章」ではなく「映像」を記録する
現場を見ていない第三者(行政担当者やご家族)が、その文章を読んだだけで、事故のシーンを脳内で映像として再生できるかがポイントです。曖昧な表現を排除し、事実を積み上げます。

【具体的な記入内容】
- 時系列(タイムライン): 「巡視に行くと転んでいて、声をかけたら痛がったので、ナースを呼んだ」と繋げて書くのはNG。時刻ごとに区切り、行動を分解します。
- 位置関係の特定: 「ベッドの横」ではなく、「ベッド右側の柵から約50cm離れた床」のように具体的に。
- 発見時の姿勢: 「倒れていた」ではなく、「頭部を窓側に向け、仰臥位(仰向け)で倒れていた」と描写します。
- 事実と推測の分離:
- 事実: 見たこと、聞いたこと(〜を確認した、〜と発言があった)。
- 推測: 状況からの判断(〜と思われる、〜の可能性がある)。これらを混同しないことが重要です。
2. 発生時の対応
【考え方】組織としての「適切な初動」を証明する
事故そのものは防げないこともありますが、事故後の対応はコントロール可能です。
「発見から処置、報告までのスピード感」と「適切な連携」を記録します。

【具体的な記入内容】
- バイタル・観察: 数値(血圧、脈拍、SpO2、体温)、意識レベル(JCS等)、外傷の有無・部位・大きさ(cm)。
- 応急処置: クーリング、圧迫止血、安静臥床、経過観察など、具体的に何をしたか。
- 連携(報連相): 「誰に」報告し、「誰から(医師・看護師)」「どんな」指示を受けたか。
- 家族連絡: 「誰が」「いつ」「誰(続柄)に」伝え、「相手の反応(了承したか、来所するか)」はどうだったか。
3. 利用者の状況
【考え方】「なぜその事故が起きたか」の背景を描く
事故には予兆や背景があります。「普段の様子」と「事故直前の様子」を比較する視点で記述します。

【具体的な記入内容】
- 直前の様子: 落ち着きがなかった、頻繁にトイレに行きたがっていた、眠気がありふらついていた、など。
- 普段とのギャップ: 「普段は歩行器を使用しているが、当日は独歩で移動しようとしていた」「いつもはナースコールを押すが、今回は押さなかった」など。
- 心身の状態: 認知症の程度、麻痺側、視力・聴力の状態、服薬内容の変更(ふらつきの副作用がある薬を開始したばかり等)。
第3章:状況別!「状況」欄の書き方・例文(Before/After)
上記のポイントをふまえ、「詳細状況・対応・利用者状況」の記述欄の書き方を例文で考えてみます。
ケース1:居室での転倒事故(発見時)
【状況】 定時巡視で訪室したら、利用者様がベッド横で倒れていた。
| 記入欄 | × 悪い例 | ○ 良い例 |
| 発生時状況 | 14:00頃、A様居室へ巡視に行った際、ベッドサイドで転倒されているのを発見した。本人は床に座り込んでいた。 ※ POINT 「ベッドサイド」は曖昧。「座り込んでいた」のは発見時なのか、転倒後に起き上がったのか不明確 | 14:00 職員Bが定時巡視のため訪室。 A様がベッド右側の床上で、頭部を入り口側に向けた仰臥位(仰向け)の状態で倒れているのを発見。 |
| 発生時の対応 | 右膝に擦り傷と発赤があったため、処置をして湿布を貼った。バイタル測定を行い、熱もなかったのでそのまま様子を見ることとした。 ※ POINT バイタルの数値がなく「熱もなかった」と主観的。「様子を見る」とあるが、誰の指示なのか(看護師報告の有無)が不明 | 14:03 看護師CへPHSにて報告し、応援を要請。 14:05 看護師C到着。身体確認の結果、右膝に5cm×5cmの発赤・熱感を確認。その他の部位に外傷なし。バイタル測定:BP130/80、P78、KT36.5℃、SpO2 98%。 14:10 看護師指示によりクーリング処置を実施。経過観察とする指示を受ける。 |
| 利用者の状況 | 「トイレに行きたかった」と話されていた。特に変わった様子は見られなかった。 ※ POINT なぜナースコールを押さなかったのか等の背景が抜けている。「変わった様子なし」は具体的根拠に欠ける | 直ちに駆け寄り意識確認。 意識レベル清明(JCS 0)。 ご本人より「トイレに行こうとして立ち上がったら、足がもつれた」との発言あり。 普段はナースコールにて介助依頼があるが、当日はコールがなかった。 |
ケース2:服薬ミス(誤薬)
【状況】 昼食後、B様の薬を誤ってC様に配薬してしまった。
| 記入欄 | × 悪い例 | ○ 良い例 |
| 発生時状況 | 12:30、昼食後の配薬時に職員DがB様の薬をC様に配薬した。12:40に空の袋を確認した際に誤薬が発覚した。 ※ POINT 事実は書かれているが、淡々としすぎており、なぜそのミスが起きたかの状況(環境・手順の省略など)が見えにくい | 12:30 昼食後の配薬時、職員Dが本来B様に配薬すべき定期薬(昼食後分:アムロジピン1錠、マグミット1錠)を、隣席のC様に誤って提供。C様が内服された。 12:40 配薬ケースを確認した際、C様の薬が残っており、B様の薬がないことに職員Dが気づく。 |
| 発生時対応 | 速やかに看護師へ報告し、指示を仰いだ。C様のバイタルを測定し、異常がないことを確認した。誤薬事故として事故報告書を作成した。 ※ POINT 「指示を仰いだ」結果、どうなったかが不明。「異常なし」の数値がない。重要な「ご家族への連絡」の記述が抜けている | 12:42 直ちに看護師・管理者に報告。 12:45 看護師によりC様のバイタル測定実施(BP120/70、P80、異常なし)。配置医へ電話連絡し状況報告。「血圧低下の可能性があるため、夕方まで1時間おきにバイタル測定し経過観察」との指示を受ける。 13:00 管理者よりご家族(長男)へ電話にて経緯報告と謝罪を行う。「様子を見てください」との言葉をいただく。 |
| 利用者の状況 | C様は全量内服済み。特に変わった様子はなく、落ち着かれていた。 ※ POINT 「落ち着いていた」は主観。誤薬した薬のリスク(血圧低下など)を踏まえた観察ができているかが伝わらない | 誤薬時、C様は全量摂取された。 誤薬発覚時のご本人の体調に変化は見られなかったが、降圧剤内服による血圧低下リスクがあるため、顔色やふらつきの有無を重点的に観察した。 |
あらゆる「予期せぬ事態」の記録に
今回は代表的な事例として「転倒」と「誤薬」を取り上げましたが、介護現場における「事故」の定義は広く、報告書作成が必要となるケースは多岐にわたります。
- 急病・体調の急変:食事中の誤嚥、呼吸停止、意識消失、痙攣発作など
- 予期せぬ怪我:介助中の皮膚剥離、ドアへの挟み込み、他利用者との接触による外傷など
- 離設・行方不明:無断外出により警察への届け出が必要になった場合など
これらはすべて、いつ起こるか分からない「予期せぬこと」です。
緊急性が高く、スタッフが動揺しやすい場面であればあるほど、冷静な記録を残すことは困難になります。
第6章で紹介する「ケアコラボ」は、「写真」で状況を正確に記録したり、「音声入力」で見たままを話すだけで記録を残すなど、あらゆるパターンの事故報告書作成を強力にサポートします。
第4章:深掘り必須!「原因分析」の書き方
「なぜ起きたのか?」の分析が浅いと、効果的な対策は打てません。
多くの自治体様式にある「発生原因」の欄は、報告書の肝です。「本人の不注意」「職員の確認不足」といった一言で終わらせず、「4M4E」のフレームワークを使って多角的に分析します。
1. 原因を洗い出す「4M」の視点
「4M4E」とは、事故の原因を4つの「M」の視点で分析し、4つの「E」で対策を検討するリスクマネジメントの手法です。
原因分析の段階では、まず以下の「4M」の視点で要因を洗い出します。単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合っていることを記述するのがコツです。
① Man(人的要因:利用者・職員)
- 利用者側: 身体機能(麻痺、筋力低下)、認知機能(危険認識の欠如)、精神状態(不安、興奮)、生理的欲求(尿意、空腹)。
- 職員側: 手順の不遵守、確認不足、知識・技術不足、疲労、焦り、心身の不調。
② Machine(設備・用具的要因)
- 福祉用具の適合性(車椅子のサイズ、杖の高さ)、故障・不具合、ブレーキの効き、センサーの感度設定、ベッド柵の種類。
③ Media(環境的要因)
- 物理的環境:床の濡れ、段差、コード類の散乱、照明の明るさ、手すりの位置。
- 人的環境:職員の配置状況、他利用者の動き、騒音、死角の有無。
④ Management(管理的要因)
- マニュアル・手順書の不備、業務量の偏り、休憩取得状況、情報共有の仕組み(申し送りの漏れ)、教育・研修の不足。
2. 対策を立案する「4E」の視点
原因(4M)が特定できたら、それに対応する対策を「4E」の視点で検討します。 精神論に頼らず、効果の高い順(上から順)に対策を組み合わせることが重要です。
① Engineering(工学的対策:ハード)
- 最も効果が高い対策。
- 物理的に事故が起きない(起きにくい)状態を作ること。
- 例:センサーマットの導入、ベッドの高さ調整、手すりの設置、リハビリシューズへの変更。
② Enforcement(強制的・管理的対策:ソフト)
- ルールや手順を変更し、遵守させること。
- 例:マニュアルの改訂、チェックリストの導入、手順の簡素化、ダブルチェックの義務化。
③ Education(教育的対策:ソフト)
- 知識や技術を教育すること。単体では効果が薄れやすいため、他と組み合わせる。
- 例:移乗介助の研修実施、事例検討会(カンファレンス)の開催、危険予知トレーニング。
④ Example(模範・事例の共有:ソフト)
- 情報を水平展開し、意識を高めること。
- 例:ヒヤリハットの共有、他フロアへの事例周知、リーダーによる模範提示。
記述例: 「ご本人の認知機能低下による危険認識の薄さ(人的要因)に加え、入所時に適合チェックが行われていないサイズ不適合なスリッパを使用していたこと(用具的要因)、および物品確認のマニュアルに適合性チェックの項目が欠落していたこと(管理的要因)が複合的に重なり発生した。」
第5章:実効性のある「再発防止策」の立て方
行政の実地指導で最も指摘されやすいのが、この「再発防止策」です。
「気をつける」「注意喚起する」といった精神論は、防止策として認められないケースがあります。
第4章で解説した「4E」を意識し、具体的なアクションに落とし込みます。
「ハード」と「ソフト」で考える具体的アクション
具体的な「行動」や「環境設定」の変更を記載します。誰が実行しても同じ結果になる再現性が重要です。
1. ハード面の対策(Engineering)
- 物品変更: 「スリッパの使用を中止し、踵のあるリハビリシューズへ変更する(ご家族同意済み)」
- 設備設置: 「ベッドサイドに衝撃吸収マットを設置する」「センサーマットを『踏むタイプ』から『起き上がり検知タイプ』に変更する」
- 配置変更: 「居室内の家具配置を見直し、ポータブルトイレをベッド右側へ移動し動線を確保する」
2. ソフト面の対策(Enforcement / Education / Example)
- 手順変更: 「配薬時は必ずトレイを使用し、食札との照合を『指差し確認』かつ『声出し確認』で行うルールに変更する」
- 時間・配置: 「事故多発時間帯である16:00〜17:00のフロア見守り人員を1名増員する(記録業務時間をずらす)」
- 教育・周知: 「〇月〇日の全体会議にて本事例を共有し、移乗介助の実技研修(復習)を実施する」
PDCAサイクルを回す記述
対策は「立てて終わり」ではありません。「いつ評価するか」まで書くと評価が高まります。
記述例:「上記対策を実施し、2週間後のリスクマネジメント委員会にて効果検証を行う」
第6章:事故報告書作成の負担を減らすICT活用
ここまで詳細な書き方を解説してきましたが、正直なところ「業務中にこれだけ詳しく書く時間はない!」と思われた方も多いでしょう。
紙やWordでの運用では、下書き・清書・承認リレーに膨大な時間がかかり、記憶も曖昧になりがちです。
ケア記録システム・介護アプリ「ケアコラボ」が解決する3つの課題
弊社が提供する「ケアコラボ」のようなシステムを活用することで、この負担を大きく軽減し、かつ質の高い報告書を作成できます。
1. スマホで「その場入力」&「音声入力」
事故発生直後、記憶が一番鮮明なうちにスマホで記録できます。フリック入力が苦手な職員でも、音声入力を使えば「話すように」状況を記録が可能です。
メリット: 「後で思い出そう」というストレスから解放され、正確な時系列記録が残せます。
2. 写真添付で「状況を正確に伝える」
文章で「ベッドの右側の床に…」と書くよりも、現場の写真を1枚撮って添付する方が、状況は正確に伝わります。怪我の状態(発赤の大きさなど)も写真なら一目瞭然です。
メリット: 行政やご家族への説明時、写真があることで客観性が担保され、トラブル防止に役立ちます。
3. 記録の集計と活用
紙の報告書はファイルに綴じられて終わりですが、ケアコラボならデータとして蓄積されます。
「最近、14時台の転倒が多い」「A様は食後の事故が多い」といった傾向分析が容易になり、真の意味での再発防止策(エビデンスに基づいたケア)が可能になります。
事故報告書やヒヤリハットは、いざという時に「利用者様と職員を守る証拠」となり、未来の事故を防ぐ「再発防止の鍵」となる極めて重要なものです。
しかし、日々の業務に追われて記録がおろそかになったり、分析まで手が回らなかったりしては、せっかくの記録もその役割を果たせません。
事故が起きても慌てない体制を作るための「転ばぬ先の杖」として、ケアコラボの導入を検討してみませんか?

まとめ:報告書は「組織の資産」
事故報告書は、自治体へ提出する公的な文書であり、コンプライアンスの要です。
しかしそれ以上に、「同じ失敗を繰り返さないための組織にとっての資産」です。
標準様式に沿った正しい書き方を身につけ、「精神論」から脱却した具体的な再発防止策を立てることで、現場のケアの質は確実に向上します。
ICTツールも賢く活用しながら、「読み手に伝わる」「未来を変える」報告書作成を目指しましょう。
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