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ケアコラボの視点

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P-mSHELL分析の書き方と具体事例|介護事故を防ぐ仕組みづくり

佐藤 ありさ 佐藤 ありさ

「P-mSHELL(ピーエムシェル)分析」とは、医療・介護現場に特化した、事故や人為的ミスの背景にある要因を多角的に分析するためのフレームワークです。では、なぜフレームワークを使って分析をすることが大切なのでしょうか。

この分析が役立つのは、例えば介護現場の事故やヒヤリハットなどです。もちろん起きないのが一番ではありますが、いざ起きてしまった時に「もっと注意しよう」「次からは気を付けよう」だけで終わっていませんか?
事故やヒヤリハットが起きたとき、ただ「気を付けよう」では終わらせず、その背景にある要因を分析し、仕組み自体を改善をすることは、介護現場でのリスクマネジメントにおいて非常に重要なことです。

本記事では、ヒヤリハットや事故などの記録を時系列でまとめることができるケア記録ソフト「ケアコラボ」を手がけるスタッフが、P-mSHELL分析や、そのフレームワークを使った具体的な分析事例などをわかりやすく解説します。

介護現場のリスクマネジメント基礎:精神論からシステム思考への転換

「個人の不注意」ではなく「仕組み」を疑う

リスクマネジメントで最も大切なのは、事故の原因を個人の「不注意」や「確認不足」で片付けないことです。人間は誰でもエラーを起こす生き物であることを前提とし、事故が起きたときは以下のように「仕組み」に目を向けることが大切です。

  • ✕ 個人責任論
    • もっと注意深く見ていたら、事故を防ぐことができた
    • 当日担当していたスタッフの確認不足が原因だ
    • 気が緩んでいたからミスをした
  • 〇 システム思考(全体像を俯瞰し、要素間の関係性で捉える)
    • ミスは誰にでも起きるものである
    • なぜミスが起きる環境だったのか
    • チームや手順の問題として仕組みを変えよう

「誰が悪かったのか」という犯人探しではなく、「なぜミスが起きてしまう環境だったのか・防げない仕組みだったのか」に目を向けることが、組織の安全性を高める第一歩です。

分析モデルの進化と詳細:SHELLからP-mSHELLまで

SHELL(シェル)モデルとは?基本構造を解説

事故分析の基本となるのがSHELL(シェル)モデルです。これは、事故の当事者(L:人)を中心に置いて、周りの4つの要素(S・H・E・L)との関係を見る手法です。Sはマニュアルや手順、Hは設備や福祉用具、Eは環境、そして周りにいるもう一人のL(他スタッフや多職種)です。事故は当事者一人のせいではなく、これらの要素のどこかが噛み合わなかったことによって起きた、という考え方です。例えば「手順書が分かりにくかった(Sとのミスマッチ)」や「照明が暗かった(Eとのミスマッチ)」といった具合に、どことミスマッチが起きたかという視点で分析します。

SHELL(シェル)モデルの構成要素

構成要素定義介護現場での具体例
S (Software)ソフトウェアマニュアル・手順書・規則・ケアプランなど
H (Hardware)ハードウェア建物・設備・車いす・ベッド・センサー・ナースコールなど
E (Environment)環境照度・室温・湿度・騒音・床の状態など
L (Liveware)当事者以外同僚・多職種(看護師やPT)・ご家族など
L(中心: Liveware)当事者ヒヤリハットや事故時に関与した本人(スタッフ)の、知識・技術・性格・疲労度・心身の状態など

mSHELL(エムシェル)モデルとは?「組織管理(Management)」の視点を加える意義

SHELLモデルに、さらに「組織の管理(management)」という視点を加えたのがm-SHELL(エムシェル)モデルです。介護現場のミスを深掘りしていくと、そもそも「無理なシフトが組まれていた」「研修が足りていなかった」といった、現場スタッフだけではどうしようもない組織的な課題に行き着くことがよくあります。現場の職員に責任を押し付けるのではなく、管理者や組織全体がどうサポートできていなかったかを見直すこと。mの視点を入れることで、より本質的で公正な分析ができるようになります。

  • m (Management) を追加: 「組織・管理」の視点を追加。シフト体制や教育など、組織的な要因。

P-mSHELL(ピーエムシェル)モデルとは?ご利用者(Patient)を独立させた介護現場におすすめの分析法

P-mSHELLモデルとは、医療や介護の現場に合わせてさらに進化した分析手法です。最大の特徴は、従来のモデルでは「他者(L)」に含まれていた「ご利用者(Patient)」を、独立した要素(P)として明確に位置づけたことです。介護現場では、ご利用者の体調の変化や心身の状況などが、事故に大きく関わります。そのため、スタッフ(L)とご利用者(P)の関係性をしっかりと確認することが必要になります。

  • P (Patient) を独立した要素として追加:「ご利用者」の要素を独立。体調や性格など、ご本人側の要因。
介護現場でのP-mSHELLモデルの7つの要素を図式化したもの

P-mSHELL(ピーエムシェル)モデルを使った分析の手順

実践手順1:5W1Hを用いた客観的かつ詳細な「事実確認」

P-mSHELL分析の最初のステップは、何が起きたのかを正確に集める「事実確認」です。ここでは「いつ・どこで・誰が」といった5W1Hの視点で情報を集めます。「〇〇さんが焦っていたからだ」などといきなり理由を決めつけてはいけません。まずは、防犯カメラの映像やケアの記録、目撃した人の話などから、客観的な事実だけを集めます。

  • いつ(When)
  • どこで(Where)
  • 誰が(Who)
  • 何を(What)
  • なぜ(Why)
  • どのように(How)

実践手順2:事実(Fact)と推測(Guess)を明確に分離して記述する

分析で一番やってはいけないのが、事実と自分の思い込みを混ぜてしまうことです。「ご利用者が急に動いた」というのは事実だったとしても、「ご利用者はトイレに行きたかったのだろう」というのは推測です。P-mSHELLでは、この「事実(Fact)」と「推測(Guess)」をハッキリと分けて分析することが大切です。推測が混ざると、本当の原因が見えなくなってしまいます。まずは見えたまま、聞こえたままの事実を並べ、その後に「なぜそうなったか」の推測を加えるようにしましょう。

× 良くない例〇 良い例
ご利用者Aさんは、お手洗いに行きたくて焦っていたため、転倒した。・〇〇さんは小走りで廊下を移動していた。
・トイレの前で転倒した。
・(推測:尿意があり焦っていた可能性がある)

実践手順3:時系列(タイムライン)で事故前後の行動と状況を整理する

事故は、その瞬間だけに原因があるわけではありません。P-mSHELL分析の方法としておすすめなのが、時間をさかのぼって時系列で並べることです。事故の瞬間だけでなく、「勤務開始時」「事故の1時間前」「直前」「発生時」「発見後」と、時間の流れに沿って行動や状況を書き出してみましょう。「この時点で声をかけていれば」「ここで準備が遅れていた」など、事故に向かってどのような流れがあったのか整理すると、隠れた原因が見えてきます。

  • 事故前(勤務開始〜直前):予兆はあったか?疲れは?
  • 事故発生時:その瞬間の動作や環境は?
  • 事故後(発見〜対応):初動は適切だったか?

実践手順4:7つの構成要素へ情報を振り分ける

時系列で事実が整理できたら、P-mSHELLモデルの7つの要素に分けていきます。整理してみると、「環境(E)の情報が足りないな」とか「マニュアル(S)の問題が多いな」といった偏りに気づけます。P-mSHELLモデルとは、複雑な事故の状況を整理するための便利な棚のようなものです。

《 P-mSHELLモデルの7つの要素 》

  • P:ご利用者(心身の状態、性格など)
  • m:組織・管理(勤務体制、教育・研修など)
  • S:ソフトウェア(マニュアル、ケアプランなど)
  • H:ハードウェア(福祉用具や介護機器など)
  • E:環境(照明、室温、騒音など)
  • L:当事者(心身の状態、技術、疲労など)
  • L:当事者以外(同僚、ご家族など)

実践手順5:要素間のミスマッチからエラー要因を特定

情報を整理できたら、いよいよ分析です。それぞれの要素同士の関係を確認し、どこにミスマッチがあったかを探します。例えば、「歩行が不安定なご利用者(P)」と「滑りやすい床(E)」の組み合わせが悪かったのか、それとも「新人スタッフ(L)」と「難しいマニュアル(S)」の相性が悪かったのか。P-mSHELL分析とは、単独のミスではなく、このミスマッチを見つける作業です。

  • P × H のミスマッチ(ご利用者 × 福祉機器)
    • 状況: 左半身麻痺のあるご利用者(P)に対し、ナースコールが左側に置かれていた(H)。
    • 結果: コールを押そうとして身体をひねり、ベッドから転落した。
    • 分析:「コールを押さずに起きた」のではなく、「押せない位置にあった道具」とのミスマッチ。
  • S × P のミスマッチ(ルール × ご利用者)
    • 状況: ケアプランには「トイレは自立(見守りなし)」とある(S)が、その日は発熱がありフラつきが見られた(P)。
    • 結果: ケアプランに則り一人でトイレに行っていただいたところ、廊下で転倒した。
    • 分析: ケアプラン(マニュアル)と、リアルタイムのご利用者状態との乖離。
  • L × m のミスマッチ(当事者 × 管理)
    • 状況: 判断ミスをした職員(L)は、連続勤務により寝不足の状態だった(m)。
    • 結果: 薬の確認がおろそかになり、誤薬が発生した。
    • 分析: 個人の「うっかり」ではなく、負担が集中してしまう「勤務シフト」とのミスマッチ。

転倒や誤薬はどう防ぐ?P-mSHELL分析を用いた介護現場の具体的事例

分析事例1:夜間トイレ介助中の転倒事故

夜間のトイレ介助は転倒リスクが非常に高い場面です。しかし、これを「職員が支えきれなかった」という個人の責任だけで片付けてはいけません。スタッフの疲労(L)や人員体制(m)、足元の暗さ(E)など、複数の要因が重なって起きた事故ではないかと、多角的に分析することで、解決策が見えてきます。

状況: 午前4時頃、トイレへ行きたいと訴えた利用者E氏を介助中、廊下で膝折れし、職員が支えきれず共に転倒した。

要素分析内容(要因の抽出)
P (ご利用者)頻尿傾向があり、強い尿意切迫感から「早く行きたい」と焦って歩き出してしまった。下肢筋力が低下しており、特に寝起きは膝折れしやすい状態だった。
L (当事者)夜勤明けの時間帯(午前4時)で疲労のピークにあり、瞬発力や注意力が低下していた。自分一人で対応しなければならないというプレッシャーがあった。
H (ハードウェア)廊下の手すりがトイレのドア前で途切れており、転倒した地点には掴まる場所がなかった。
m (管理)★重要 当日急な欠勤者が出ており、本来の配置より1名少ない状態で夜勤を行っていた。そのため、他の職員に応援を頼める状況ではなかった。
E (環境)廊下は常夜灯のみで薄暗く、職員の体が影になり、利用者の足元のつまずく場所が見えにくかった。
対策「急いでいる足元の悪い利用者」を、「薄暗い環境」の中で、「疲労した職員がたった一人」で支えなければならない悪条件が重なった。・足元を自動で照らす人感センサーライトを設置する(E・Hの改善)・夜間欠勤時の緊急応援フロー(オンコール体制など)を見直す(mの改善)・E氏の居室をトイレに近い場所へ変更する(Eの改善)

分析事例2:昼食後の誤薬(他人の薬を内服)

「確認不足」で済まされがちな誤薬事故ですが、その背景には「騒がしくて集中できない環境(E)」や「文字が小さくて見にくい薬包(H)」など、ミスを誘発する要因が隠れていることが多々あります。個人の注意力だけに頼るのではなく、エラーが起きにくい「状況」や「モノ」に着目した分析例です。

状況: 食堂で、介護スタッフがAさんの薬を誤ってBさんに飲ませてしまった。

要素分析内容(要因の抽出)
P (ご利用者)Bさんは認知症を患っており、別のご利用者の名前を呼ばれた際に返事をしてしまい、薬も拒否なく飲んでしまった。
L (当事者)配薬担当のスタッフは、他のご利用者からのナースコール対応に気を取られてしまっていた。
H (ハードウェア)薬包の「氏名印字」が小さく、パッと見て判別しにくかった。また、薬の色や形も似ていた。
E (環境)食堂のテレビの音が大きく、周囲が騒がしかったため、集中力を欠く環境だった。
S (ソフトウェア)本来行うべき「指差し確認」や「本人確認」の手順が、忙しさで省略されていた。
対策焦っている心理状態で、見にくい文字と騒がしい環境が重なり、確認ミスを誘発した。・薬包にカラーラインや大きな名前シールを貼る(Hの改善)・配薬中は「配薬ベスト」を着用し、他の業務をさせない(S・mの改善)

分析事例3:食事介助中の誤嚥(むせ込み)

食事介助中の誤嚥は、技術だけの問題ではありません。ご利用者の日々の体調変化(P)が、チーム内で正しく共有(L)されていたかが大きな鍵となります。「いつも通りで大丈夫」という思い込みが招いたミスマッチと、事故を防ぐための「情報連携」の重要性に焦点を当てた事例です。

状況: 食事介助中、ご利用者Cさんが激しくむせ込み、顔面蒼白となった。

要素分析内容(要因の抽出)
P (ご利用者)前夜から微熱があり、覚醒レベルがいつもより低く、飲み込む力が弱っていた。
L (当事者以外)★重要 夜勤者から日勤者へ「微熱があり疲労気味」という申し送りが漏れていた。
L (当事者)担当スタッフはCさんの普段の様子(自力摂取可能)しか知らず、いつも通りのペースで介助した。
E (環境)リクライニングの角度が、飲み込みやすい30〜60度ではなかった。
H (ハードウェア)提供された食形態(きざみ食)は合っていたが、とろみの粘度が薄かった。
対策利用者のその日のコンディション(P)が、介助する職員(L)に伝わっていなかった。・食事前のバイタル・覚醒チェックシートの導入(Sの改善)・食事前の姿勢(ポジショニング)の統一マニュアル作成(S・Eの改善)

正確な分析には「正確な記録」が不可欠

ここまで3つの事例を見てきましたが、詳細なP-mSHELL分析を行うためには、大前提として「正確な情報」が必要です。

  • 「事故の直前、利用者様はどんな様子だったか?(P)」
  • 「その時、部屋の明るさはどうだったか?(E)」
  • 「福祉用具や機器の選定はどうなっていたか?(H)」

もし、これらの情報が記録に残っておらず、職員の「記憶」だけに頼ってしまったらどうなるでしょうか。記憶は時間が経つほど曖昧になり、いつの間にか「自分にとって都合の良い解釈(推測)」にすり替わってしまう危険性があります。 「推測」で分析しても、正しい対策は打てません。 P-mSHELL分析を正確に行い、本当の意味で事故を防ぐためには、日々の様子をありのままに残せる方法を整備することが大切です。

ケアコラボなら写真や動画で記録ができる・時系列に情報があつまる

正確な記録を残し、分析に活かすために最適なのが「ケアコラボ」です。文章だけでは伝わりにくい情報も、ケアコラボなら誰でも簡単に、客観的な証拠として残すことができます。

写真や動画で「事実」をそのまま残せる

例えば転倒事故が起きた際、文章で「ベッド横で転倒」と書くだけでは、細かい状況までは伝わりません。 ケアコラボなら、発見時の現場の様子をタブレットやスマホで撮影して残すことができます。「身体の向きはどうだったか」「足元に障害物はなかったか」「ベッド柵は上がっていたか」。 言葉では説明しきれない転倒時のリアルな状況を画像で保存することで、環境(E)や設備(H)の要因を正確に振り返るための大切な情報になります。

全ての情報が「時系列」に集まる

介護職、看護師、リハビリ職など、全てのスタッフの記録がご利用者ごとのページに時系列順で集約されます。事故発生時、過去の記録をさかのぼれば、「1時間前に看護師がバイタルを測っていた」「リハビリ職が足の痛みを記録していた」といった前後の流れがすぐに分かります。バラバラになりがちな情報が一つに繋がることで、事故に至るまでの隠れた要因やミスマッチを発見しやすくなります。

まとめ

本記事ではP-mSHELL(ピーエムシェル)分析とはどのようなものかという解説から、P-mSHELLのフレームワークを使った介護現場での事故の具体的な分析事例をご紹介しました。

介護現場での事故は、誰か一人の責任ではなく、環境や仕組みのミスマッチから起こります。P-mSHELL分析は、そのミスマッチを見つけ出し、スタッフとご利用者の双方を守るための前向きなフレームワークです。 そして、その分析を支えるもののうちの1つが「記録」です。

個人の記憶に頼るのではなく、ケアコラボのようなシステムを活用して客観的な事実を集めること。それが、再発防止策の精度を高め、結果としてご利用者の安全と「その人らしい生活」を守ることにつながります。 まずは「仕組み」と「記録」を見直すことから、新しいリスクマネジメントを始めてみませんか?

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佐藤 ありさ

佐藤 ありさ

福祉系の専門学校を卒業後、介護福祉士として勤務。その後新規事業開発の仕事を経験。「これまでの経験を活かして、福祉の現場で働く方々を支援したい」 そんな想いから、2022年にケアコラボへ入社しました。 「こんなケアを実現したい」という想いを持つ一人でも多くの方に「ケアコラボ」を届け、その実現の一助となれたら嬉しいです。

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