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ケアコラボの視点

シリーズケアコラボの視点

介護現場のヒヤリハットを防ぐために。見過ごされない記録の書き方

楠本 純平 楠本 純平

「ヒヤリハット、書き方がわからず時間がかかり、結局残業になってしまう」

日々の忙しい介護業務の中で、ヒヤリハット報告書の作成を負担に感じている方は多いのではないでしょうか。
「書き方がわからない」「時間がかかる」といったことで未然に防げるはずだった「ヒヤリ」は見過ごされがちです。

しかし、ヒヤリハットは「貴重な情報」です。
事故報告書が「起きてしまったことへの対応」なら、ヒヤリハットは「事故を防ぐための知見」です。

だからこそ、書くのが面倒という悩みを解消するための「シンプルで伝わる書き方」や、シーン別のすぐに使える例文、そしてチームのケア力を高める「ケアコラボ」をご紹介します。

第1章:なぜヒヤリハットを書くのか?安心して共有できる組織へ

「ヒヤリハット=ミスの報告」という考えになりがちですが、そもそもヒヤリハットに対してどのように向き合えば良いのでしょうか。

1. 「ハインリッヒの法則」と300の予兆

労働災害における経験則として有名な「ハインリッヒの法則」をご存知でしょうか?

1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故があり、そのさらに背景には300件のヒヤリハットが存在するという法則です。

つまり、ヒヤリハットを見つけて報告することは、ピラミッドの頂点にある「重大事故」の芽を摘み取るファインプレーなのです。

「よく気づいたね!」「報告してくれてありがとう!」と称賛されるべきポジティブな活動であるという認識を、まずはチーム全体で共有しましょう。

2. 事故報告書との違い

項目事故報告書ヒヤリハット報告書
発生状況実際に利用者が怪我をした、誤薬をした等怪我や実害はない(未然に防げた、気づいた)
目的事実記録、行政報告、再発防止予兆の発見、情報共有、リスク感性の向上
マインド正確性・客観性が最優先気づき・スピード感が最優先

事故報告書が「正確な記録」を求めるのに対し、ヒヤリハットは「スピード感」が求められます。

第2章:良いヒヤリハット報告の3つの要素

良いヒヤリハット報告には、3つの共通点があります。

1. 具体性(映像が浮かぶか)

読み手がその場にいなくても、状況が映像として頭に浮かぶように書きます。
「危なかった」「焦った」という感想だけでなく、「どんな状況で」「何が」「どうなりそうだったか」を記述します。

例)

利用者さんの居室で移乗介助中、ベッド脇に置かれていた歩行器の脚に躓いて体が前に傾いた。支えていた利用者さんごと倒れそうになった。

入浴介助後の脱衣所で、床に残った水に足が滑ってバランスを崩した。
利用者さんを抱えたまま転倒しそうになった。

2. 客観性(事実は何か)

「〇〇さんの不注意で」といった主観的な決めつけは避けます。
「〇〇さんがブレーキをかけ忘れて」という事実を書きます。

主観が入ると、読んだ人が「自分には関係ない(その人のミスだ)」と感じてしまい、共有の効果が薄れます。

3. スピード(鮮度)

記憶が鮮明なうちに書くのが鉄則です。
1週間前のヒヤリハットを思い出して書いても、対策としての効果は薄れてしまいます。

良いヒヤリハットの3つの要素

第3章:【シーン別】ヒヤリハット書き方・例文集(Before/After)

ここでは、介護現場で頻発するシーン別に、例文を紹介します。

ケース1:移動・移乗介助(転倒未遂)

【状況】 トイレ誘導時、利用者様が立ち上がろうとしたが、車椅子のフットレストに足が乗ったままでバランスを崩しそうになった。

項目× 悪い例○ 良い例
状況トイレ誘導時、A様が立ち上がろうとしてバランスを崩した。
とっさに支えて事なきを得た。

※ POINT
「なぜ」バランスを崩したのか(フットレストなど)の具体的描写がない。
トイレ誘導時、A様が車椅子のフットレストに両足を乗せたまま立ち上がり動作を開始。

前方にバランスを崩しかけたため、即座に身体を支え制止した。
原因A様の立ち上がりが急だったため。自分の反応が遅かった。

※ POINT
「反応が遅かった」という個人の反省で終わっており、環境要因が見落とされている
フットレストを跳ね上げる前に、ご本人の排泄意欲が高まり(「漏れる」発言あり)、急いで動作を開始してしまったため。

また、職員が側面におり制止が一瞬遅れた。
対策急に立ち上がらないよう声かけを徹底する。

※ POINT
「声かけ」という意識だけでは、切迫した状況では機能しない
誘導時は、まず「フットレストを上げてから」声かけを行う手順を徹底する。

排泄切迫時は特に正面からの介助を意識する。

ケース2:食事・服薬介助(誤食・誤薬未遂)

【状況】 刻み食の方の席に、間違えて常食のトレーを置きそうになった。

項目× 悪い例○ 良い例
状況夕食配膳時、B様の席に違う方の食事を置きそうになった。

※ POINT
「置きそうになった」だけでは、どのタイミング(手元?カート?)で気づいたかのプロセスが見えず、危険度が伝わらない
夕食配膳時、刻み食・トロミ茶のB様の席に、誤って常食のトレーを置こうとした。

トレー上の食札とご本人の顔を見比べて直前で気づき、配膳を中止した。
原因忙しくて確認がおろそかになっていた。
集中力が足りなかった。

※ POINT
「忙しい」「集中不足」では真因が見えない。
具体的な誘引(会話、食札の見にくさなど)が分析されていない
同じテーブルの方とのお喋りに気を取られ、手元への意識が薄れていた。

また、食札の文字が小さく、パッと見て判断しづらかった。
対策指差し確認を意識して行う。

※ POINT
「意識する」だけでは忘れる。
具体的な動作ルールが必要
配膳時は会話を一旦止め、必ず「食札」と「利用者様」を指差し確認してからテーブルに置く。

食札の文字サイズ拡大を検討する。

ケース3:環境要因(設備・床)

【状況】 入浴介助中、洗い場の床に石鹸が残っており、職員自身が滑りそうになった。

項目× 悪い例○ 良い例
状況浴室の床が滑りやすくて危ないと感じた。

※ POINT
「どこ」が滑るのか具体的でない。
「感じた」という感想だけで、具体的なリスク箇所が特定できない
入浴介助中、洗い場の排水溝付近に石鹸の泡が残っており、職員が足を滑らせそうになった。

利用者様が歩行する動線上に位置しており、転倒リスクが高い状態だった。
原因掃除が行き届いていない。

※ POINT
「何が(石鹸?苔?)」残っているのか不明確で、誰が掃除したかなどの背景が見えない
前の入浴介助後の床掃除(流し)が不十分だった。

排水溝が詰まり気味で泡が滞留しやすくなっていた。
対策掃除担当者に注意喚起する。

※ POINT
「注意喚起」で終わっている。
具体的な清掃手順の見直しや道具の改善がない
介助終了後は、次の人のために必ず床全体をシャワーで流し、ヌメリがないか確認するルールを再徹底する。

排水溝の清掃頻度を見直す。

第4章:原因分析と対策は「4M」と「小さな改善」で

ヒヤリハットであっても、原因分析をおろそかにしてはいけません。

原因を深く、かつ効率的に掘り下げるために有効なのが、安全管理の現場で標準的に使われるフレームワーク「4M」です。

「4M」とは、事故やミスの背景にある要因を、以下の4つの「M」に分類して分析する手法です。

単に「スタッフの不注意」という個人の責任論で片付けるのではなく、環境や仕組みに潜む欠陥を見つけ出すためのレンズの役割を果たします。

1. 原因を「4M」で考える

「不注意だった」で終わらせず、以下の視点で考えると具体的な対策が見えてきます。

  • Man(人): 職員の焦り、利用者の体調変化。
  • Machine(設備): 車椅子のブレーキの緩み、センサーの電池切れ。
  • Media(環境): 床の濡れ、照明の暗さ、騒音。
  • Management(管理): 手順のわかりにくさ、情報の伝達漏れ。

2. 対策は「小さな改善」でOK

ヒヤリハットの段階では、大掛かりな設備投資や会議は不要です。
現場で今日からできる工夫を提案しましょう。

  • (Media:環境)配置を変える:
    • ゴミ箱の位置をベッドから遠ざける(車椅子操作の邪魔にならないように)。
    • よく使う物品を手前に置く。
  • (Management:管理)見える化する:
    • 「足元注意」のテプラを貼る。
    • ホワイトボードに「〇〇様、立位不安定」と赤字でメモを残す。
  • (Man:人)情報を共有する:
    • 申し送りで「今日はここが危なかったから気をつけて」と一言添える。


「会議を開く」「マニュアルを改訂する」といった重い対策だけでなく、「テプラを貼る」「物の位置をずらす」といったアクションが、生きたヒヤリハット対策となります。

第5章:ヒヤリハットを「書きっぱなし」にしない活用法

書いた報告書がファイルに綴じられて終わり…では、書くモチベーションも下がってしまいます。

ここでは、ヒヤリハットをチームの資産に変える活用法を紹介します。

1. 傾向分析で「見えないリスク」を可視化(ハザードマップ)

集まったヒヤリハットを集計すると、傾向が見えてきます。

  • 「14時〜16時の間にヒヤリハットが集中している」→ 人員配置を見直そう。
  • 「食堂入り口でつまずきが多い」→ 段差解消が必要かも。
    これらを施設の図面にプロットすると、「施設内の危険箇所マップ(ハザードマップ)」が完成します。

2. クイック・カンファレンスのネタにする

「なぜこのヒヤリハットが起きたのか?」をチームで長時間話し合う必要はありません。

申し送りの前後の「5分間」だけでOKです。
「これ、どう思う?」「私も似た経験ある!」と会話するだけで、チーム全体のリスク感性が磨かれます。

3. ご家族への信頼構築ツールとして

一見矛盾するようですが、ヒヤリハット報告(未然に防いだ事例)をご家族に伝えることは信頼に繋がります。

「今日、転びそうになりましたが、すぐ支えて怪我はありませんでした。今後も注意して見守ります」と伝えることで、「しっかり見てくれている」という安心感を生みます。隠さずに報告する姿勢が、万が一の事故の際のトラブル防止にも役立ちます。

第6章:スマホで完結!報告業務を効率化する方法

弊社が提供する「ケアコラボ」なら、SNS感覚でヒヤリハットを共有でき、「書く負担」を軽減できます。

ケア記録システム「ケアコラボ」でのヒヤリハット運用

1. タイムライン形式で気軽に投稿

「報告書」という堅苦しい形式ではなく、スマホから写真付きでタイムラインに投稿できます。

「ここが危ない!」と思った瞬間に写真を撮ってアップするだけ。
最新のヒヤリハット情報がチーム全体に即座に通知されます。

SNSのようなユーザーインターフェースで手軽な共有が報告や共有を促進し、環境改善につながります。


2. 「読んだよ」やコメントで承認文化を

投稿されたヒヤリハットに対し、他のスタッフが「読んだよ」や「ありがとう、気をつけるね」とコメントできます。

「報告してくれてありがとう」というポジティブなフィードバックが、次の報告を生む土壌を作ります。

3. タグ付けでカンタン検索・集計

「#転倒」「#誤薬」などのタグを付けておけば、後から事例を検索したり、集計したりするのも一瞬です。紙のファイルをめくる必要はありません。

記録を通じて組織の良好な文化作りに貢献するケアコラボ。
ご興味を持っていただいた方はぜひお気軽にお問い合わせください。

ケアの質を記録から変えるバナー

まとめ:ヒヤリハットは「組織の資産」

ヒヤリハット報告は、現場の「気づき」を可視化し、事故を未然に防ぐための重要なプロセスです。

シンプルな書き方のコツを掴み、便利なツールも活用しながら、「ヒヤリハットを褒め合う文化」を作っていきましょう。

楠本 純平

楠本 純平

ケアコラボでは、インサイドセールス、プロダクトオーナー、企画など、幅広い役割を経験。 現在は「何でも屋」として、福祉の現場で日々奮闘されるユーザーの皆さまが「ケアコラボを使ってよかった」と感じていただける瞬間を少しでも増やすため、さまざまな領域に関わっています。 志高く、あたたかなケアコラボユーザーの皆さまから学ばせていただくことも多く、日々刺激と気づきをもらっています。

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