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「ちょっと待って」が拘束に?スピーチロックを防ぐ言い換え例と声掛けのコツ

佐藤 ありさ 佐藤 ありさ

目次

こんにちは!スマホやタブレットなどを活用し、その場で記録ができるケア記録ソフト「ケアコラボ」を提供する、ケアコラボ株式会社の佐藤です。

介護現場で働く皆さま、ご利用者に対して「ちょっと待っててください」「そこから動かないでください」といった声掛けをよく耳にしたり、発してしまったりすることはありませんか?

これがご利用者の行動の自由を制限する「スピーチロック(言葉の拘束)」です。

実は私、福祉系の専門学校を卒業し、特別養護老人ホームで5年ほど働いた経験があります。介護の仕事も、ご利用者の皆さまのことも大好きだった私ですが、それでもスピーチロックがゼロだったかと言われると、自信がありません。振り返ってみると、ナースコールで呼ばれ、お部屋に向かっている途中で別のご利用者さんに呼び止められた時、「少し待っててください」とお声がけしていた時もあったように思います。

安全面に考慮した上で良かれと思ってお伝えしている言葉が、実は言葉の拘束につながってしまっていることも、介護現場では起こり得るのです。

本記事では、スピーチロックとは?から具体的な事例、言い換え例などを詳しく解説します。

一緒に働くスタッフのスピーチロックが気になっている現場の方や、仕組みから改善したいと考えている管理者の方、ぜひお読みいただけると嬉しいです。

スピーチロックとは?「3つのロック」の違い

スピーチロックの定義と介護現場での位置づけ

スピーチロックとは、介護・福祉現場において、言葉によってご利用者の行動の自由を制限してしまうことです。介護現場では、身体を縛る物理的な拘束や薬物による拘束とあわせて、ご利用者の自由を奪う「言葉の拘束」として位置づけられています。

厚生労働省の指針では、やむを得ない場合の適正な手続きをしていない身体的拘束等は、原則として高齢者虐待に該当するとされており、スピーチロックもその例外ではありません。

★参考
身体拘束ゼロへの手引き(厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」)
身体拘束廃止・防止の手引き(令和6年3月発行)

「3つのロック」フィジカル・ドラッグ・スピーチの違い

介護現場における身体拘束は、大きく3つの「ロック」に分類されます。スピーチロックが、他の拘束の引き金になることもあります 。

分類意味具体的な行為の例
ドラッグロック薬物による拘束行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に投与するなど
フィジカルロック身体的拘束転落しないように、車いすやベッドにひもで縛る、サイドレールで囲むなど
スピーチロック言葉の拘束「動かないで」「待ってて」などの言葉で行動を制限する

身体拘束禁止規定と運営指針の最新動向

介護保険制度では、サービスの提供にあたり、やむを得ない場合を除き身体拘束などを行うことが原則として禁止されています。

令和6年度の介護報酬改定では、これまでの施設系サービスに加え、訪問系サービスや通所系サービスなど、全てのサービス種別において身体拘束廃止・防止に向けた取り組みが義務化されました。基準を満たさない場合には「身体拘束廃止未実施減算」が適用されるなど、組織的な対応が厳格に求められるようになっています。

高齢者虐待防止措置未実施減算、身体拘束廃止未実施減算に関するQ&A(厚生労働省)

認知症基本法における「尊厳の保持」と「意思決定支援」

2024年1月に施行された「認知症基本法」は、認知症の方が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことを目的として掲げられたものです。これに伴い、介護現場では「不適切な拘束をしない」だけではなく、ご利用者本人の意思を尊重し、日常生活における「意思決定支援」を行うことが重視されるようになりました。認知症により意思表示が難しい場合であっても、手の動きや表情から「ご本人の意思」を汲み取る最大限の努力が必要とされています。

ご利用者の意思決定を支援する声掛けをしている介護士の写真

【事例集】介護現場で避けるべきスピーチロックの具体的表現

ここからご紹介する事例は、私自身も実際の介護現場で多く聞いたことがあるものになります。皆さま自身も、安全を第一に考えているからこそ、悪気なく無意識に発してしまっている言葉もあると思います。

しかしその言葉が、ご利用者の皆さまを深く傷つけてしまっていることがあります。

自分自身の経験も振り返りながら、実際の介護現場で起こっているスピーチロックの具体的な表現をご紹介します。

「動かないで」「座ってて」などの命令・禁止の言葉

「動かないで」「座ってて」といった言葉は、ご本人の動こうとする意欲や目的を否定する表現です。介護スタッフは転倒を未然に防ぐためなど、安全確保を理由に伝える場合が多いですが、ご本人にとっては自分の行動を抑制されることになり、不安を感じることになります。

具体例:

  • 「危ないから立たないでください」
  • 「勝手に歩かないで、そこに座っててください」
  • 「触ると危ないので、物に触れないでください」

「ダメ」「まだです」などの否定的な言葉

ご利用者が何かをしようとした際、「ダメ」と否定したり、要求に対して「まだです」と突き放したりする言葉は、ご利用者の自己決定権を奪うスピーチロックです。

ご本人の発言を否定し続けると、信頼関係が崩れるだけでなく、「何を言っても無駄だ」と諦め、意欲を失なってしまうリスクがあります。意思決定を尊重することが重要視されている今、たとえ実現が難しい要求であっても、まずはご本人の心に寄り添い、想いを受け止めることが大切です。

具体例:

  • 「さっきトイレに行ったばかりだから出ないはずですよ」
  • 「まだ時間じゃないので帰れません」
  • 「いま忙しいのでちょっと待っててください」

「さっき言ったでしょ」などの障がいへの理解がない発言

認知症による記憶障がいがあるご利用者に対し、「さっきも言ったでしょ」「何度言わせるの」といった言葉を投げることは、病気や障がいの特性に対する理解が足りていない関わり方です。

ご本人は忘れたくて忘れているわけではなく、忘れてしまうことで誰よりも不安を感じています。追い打ちをかけるような口調での声掛けは、さらなる混乱や興奮、暴言といった行動・心理症状(BPSD)を悪化させる原因となります。

具体例:

  • 「お昼ごはんはもう食べました。何度も言わせないでください」
  • 「今日はお泊まりだと、さっきも伝えましたよね」

「静かにして」など尊厳を傷つける声掛け

「うるさい」「静かにして」といった言葉は、ご利用者の人格を否定することになりかねない、虐待的な声掛けです。大声を出す、繰り返し同じことを言うといった行動には、不安、孤独、身体的な不快感など、必ずご本人なりの理由があります。その背景を分析せず、力で押さえつけるような言葉で封じ込めることは、権利擁護の視点から見て極めて重大な問題です。

具体例:

  • 「お隣の方に迷惑なので、静かにしてください」
  • 「うるさいですよ、皆さんが不安になってしまいます」

スピーチロックがご利用者にもたらす悪循環

「拘束が拘束を生む」精神的・身体的な悪循環

スピーチロックはさらなる拘束が生じる「悪循環」を引き起こしかねません。言葉で行動を制限されたご利用者は、不安や怒りから混乱し、それが大声や徘徊といった行動・心理症状(BPSD)として現れることもあります。スタッフはその行動を抑えるために、さらに強い言葉や物理的な拘束、あるいは薬物によるロックを用いるようになり、ご利用者の体力や生活機能はさらに低下していく可能性があります。

この悪循環が起きないようにするためには、スピーチロックを自立を妨げる要因として捉え、早期に適切なケアへと転換することが不可欠です。

ADL(日常生活動作)の低下リスク

「歩かないで」「座っていて」と言葉で動きを制限し続けることは、ご利用者の身体機能を低下させてしまうことにつながります。筋力の低下や関節の拘縮、さらには四肢の廃用症候群を招き、短期間で「寝たきり」の状態にまで追い込まれてしまう危険性まであります。

安全を優先して伝えたはずの言葉が、ご利用者の歩行能力を奪い、結果として転倒のリスクをより深刻なものにするケースは少なくありません。

廃用症候群を進行させるリスク

スピーチロックは、身体機能だけでなく、食欲が低下して感染症への抵抗力も弱まるなどの、内的な弊害も生じさせる危険性があります。

また、ベッドから起きて活動することは、人間らしい生活を送る上で非常に大切なことですが、行動が制限され、ベッドの上で天井を見て過ごす時間が増えることで、身体機能や精神機能が低下する廃用症候群が進むリスクもあります。

家族が抱く罪悪感や、施設に対する不信感

もし自分の大切な家族が、介護現場で「動かないで」「静かにしてて」と声掛けをされていたら、皆さんならどう感じるでしょうか?少なくとも私は悲しい気持ちになります。介護施設に対して不信感も感じますし、そこにお願いをした自分自身にも後悔を感じると思います。

ご利用者の家族側がどう感じるかという視点を持つこと、またご利用者やご家族だけでなく、地域社会からの不信感や偏見を引き起こす弊害も含んでいることを忘れてはなりません。

【言い換え表】明日から実践できる声かけとコミュニケーション

命令形を「依頼」や「提案」に変換する

スピーチロックを回避する方法は、言葉の語尾やトーンを意識的に変えることです。「〜しないでください」「〜してください」といった一方的な命令形を、「〜していただけますか?」という依頼の形や、「〜しましょうか?」という提案の形に変換します。

具体的な数字や動作で見通しを提示する

「ちょっと待って」「後で」といった曖昧な言葉は、終わりが見えない不安を煽ることになってしまいます。これは介護現場に限らず、日常生活でも同様ですよね。

そのような場合は、曖昧な表現ではなく「あと5分だけ待っていただけますか」「このお掃除が終わったら伺いますね」と具体的な数字や区切りを伝えることが大切です。見通しが立つことでご利用者は安心感を得ることができます。

「ダメ」と言う前に相手の理由や感情を受け止める

ご利用者の行動に対して即座に「ダメ」と反応するのをやめ、まずはその瞬間の相手の理由や感情を丸ごと受け止める姿勢が重要です。立ち上がろうとしている、あるいはオムツを外そうとしている行動には、必ず「トイレに行きたい」「どこかが痛い」「蒸れて気持ち悪い」といったご本人なりの理由があります。何が原因かを想像し、「お手洗いに行きたくなりましたか?」「お尻がむずむずしますか?」と問いかけることで、「自分のことを分かってもらえた」という安心感を得ることができます。

クエスチョン・テクニックを活用した選択肢の提示

ご利用者の自己決定を促すためには、指示を出すのではなく、問いかけによって選択肢を提示する「クエスチョン・テクニック」が有効です。例えばお食事の場面で、「次はお魚とお野菜、どちらを召し上がりますか?」とお聞きします。このように、日常生活の些細な場面でもご本人の意思を確認し、選んでもらう機会を増やす姿勢が大切です。

言い換え表を活用したチームでの周知徹底

適切な声掛けを個人の努力だけに頼るのではなく、施設全体でスピーチロックの「言い換え表」や「事例集」を共有し、周知徹底を図ることもおすすめです。研修や会議の場で具体的なNGワードとOKワードを視覚的に提示し、チーム全体で共通認識を持つようにします。

スピーチロックの表現言い換え例
「危ないから動かないでください」「何かお探しでしょうか?お手伝いしますよ」
「そこに座っていてください」「こちらで座ってお茶でも飲みながらお話ししませんか?」
「今忙しいので、少し待っててください」「今他の方のお手伝いをしているので、あと5分待っていてください」
「まだ順番じゃないのでダメです」「次にお呼びしますね。それまでこちらの雑誌をご覧になりますか?」
「自分でやらないでください」「ここは私がお手伝いしますので、こちらの仕上げをお願いできますか?」
「さっきお伝えしましたよね」「そうでしたね、もう一度丁寧にお伝えしますね」
「他の方の迷惑になるので、静かにしてください」「何か不安なことがおありですか?お話を聞かせてください」
「片づけなくてはいけないので、早く食べてください」「ご自分のペースで、ゆっくり味わって召し上がってくださいね」
「危ないので、それに触らないでください」「それが気になりますか?手にとって一緒に見てみましょうか」
「まだ時間じゃないので、帰れませんよ」「お家のことが気にかかるのですね。ご家族のお話を聞かせてください」

施設全体で取り組むスピーチロック防止の研修と対策

身体的拘束等適正化検討委員会の役割と効果的な運用

法令に基づき設置される「身体的拘束等適正化検討委員会」を、形式的な会議の場ではなく、現場のケアの質を高める会議の場として運用することが重要です。委員会は、少なくとも3ヶ月に1回開催し、もし仮に身体拘束が行われてしまっている場合は、その改善策を多職種で議論します。

スピーチロックの事例も積極的に議題に上げ、現場でどのような言葉が交わされているか、どのような状況で発生しやすいかを分析・共有することが大切です。

スタッフ同士が「それスピーチロックかも」と指摘し合える環境作り

どんなに話し合いや研修を重ねても、毎日が忙しい介護現場では無意識に不適切な言葉が出てしまうことがあります。そのため、スタッフ同士が「今の声掛け、あまり良くないんじゃない?」と、フラットに指摘し合える心理的安全性の高い職場作りをすることがとても重要です。

他法人の対応事例を参考にしたり、複数の法人が集まってディスカッションしたりすることも、自分たちのケアを見直すきっかけになります。

法人を超えて集まりディスカッションをしている時のスクリーンショット

ケアコラボで開催している、法人の壁を超えたユーザー同士の交流会の様子です。
ケアコラボの機能や使い方の活用ノウハウの共有だけではなく、同じサービスを提供する事業所さん同士で、「こういう時どうしている?」といったような悩みを相談する場にもなっています。

まとめ:スピーチロックゼロで質の高い介護へ

言葉の改善は「仕組み」の改善から

スピーチロックをなくすことは、単に言葉遣いを改善するだけの問題ではありません。それはご利用者の尊厳を守り、自立を支援するプロの介護スタッフとしてのあり方を問い直すことです。しかし、不適切な声掛けが発生する背景には、人手不足や煩雑な業務に追われるという構造的な課題が隠れていることが多いのも事実です。

声掛け方法の改善を個人の課題にするのではなく、記録業務の効率化や情報の共有方法といった「組織の仕組み」を改善し、スタッフが心にゆとりを持てる環境を整えることこそが、スピーチロックをゼロにする上で大切なことになります。

心と時間のゆとりをサポートするケア記録システム「ケアコラボ」

ICTツールの活用は、介護現場における仕組みの改善の要となります。ケア記録システム「ケアコラボ」は、タブレットやスマホを使って「その場」で記録が完結し、今まで記録業務に費やしていた時間を効率化することができます。

記録業務の効率化によってできた時間は、本来大切にすべきご利用者と向き合う時間、そしてご本人の意思を深く理解するための時間として使うことができます。

また、リアルタイムでの多職種間の情報共有は、申し送りの時間を短縮するだけでなく、「あのご利用者さまにはこの声掛けが良かったよ」というポジティブな共有をスムーズにすることができます。

写真や動画つきで記録ができるケアコラボのスクリーンショット

まずはお問い合わせ・資料ダウンロードから

スピーチロックのない、ご利用者の尊厳を守るケアの実現の方法の1つとして、ICTツールの導入があります。わたしたち「ケアコラボ」も、皆さまの心にゆとりを生み、スピーチロックのない現場づくりをサポートします。

具体的な導入事例や、機能の詳細についてなどを記載している資料を、以下より無料でダウンロードいただけますので、ご興味がある方はぜひご一読ください!

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佐藤 ありさ

佐藤 ありさ

福祉系の専門学校を卒業後、介護福祉士として勤務。その後新規事業開発の仕事を経験。「これまでの経験を活かして、福祉の現場で働く方々を支援したい」 そんな想いから、2022年にケアコラボへ入社しました。 「こんなケアを実現したい」という想いを持つ一人でも多くの方に「ケアコラボ」を届け、その実現の一助となれたら嬉しいです。

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