シリーズケアコラボの視点
バイタルサインをご利用者の生活リズムとケア記録に紐づける実践ノウハウ
はじめに〜バイタルサインとは〜
日々の業務の中で、バイタルはどのように測定されていますでしょうか。
明らかな異常値を早期発見することはもちろん重要ですが、定義上の「基準値」だけを見ていては、ご利用者が発している「小さな変化(サイン)」を見落としてしまうかもしれません。
バイタルサインは単なる数字の羅列ではなく、言葉で訴えることが難しいご利用者の「身体の声」そのものです。
本記事では、介護記録システム・介護アプリ「ケアコラボ」を手掛けるスタッフが、多くの福祉事業所様へシステムを提供する中で培った知見をもとに、バイタルサインをケアの質向上に活かす視点を解説します。
教科書の「基準値」よりも大切な「その人の基準値(ベースライン)」
介護の基礎教育や医療の知識として、一般的な「基準値」を学びます。
収縮期血圧は130mmHg未満が良い、体温は36℃台〜37℃付近が平熱である、といった基準です。これらは確かに重要な「共通言語」ですが、この物差しだけで判断するだけでは危ういケースもあります。
なぜなら、ご利用者の身体は、加齢による生理的変化や長年付き合ってきた疾患、服用している薬の影響によって、「その人だけのバランス」で成り立っているからです。
バイタルの「リズム」を掴む~生活の中での血圧の変化~
「個別の基準値」は、一点の数値だけでは見えてきません。時間軸を含めた「リズム」として捉える必要があります。
人間の身体には「概日リズム」があり、血圧や体温は1日の中で変動しています。
一般的に、血圧は起床前から上がり始め、日中の活動時に高くなり、夜間睡眠時に下がります。体温も早朝が最も低く、夕方にかけて高くなります。
しかし、高齢者の場合、自律神経の働きが低下しているため、このリズムが崩れていたり、変動の幅が大きくなっていたりすることがあります。
- 入浴前後の変化: 入浴直後は血管が拡張して血圧が下がりますが、熱いお湯に入った直後は急上昇することもあります。その人の「入浴時の血圧変動パターン」を知っていれば、安全な入浴介助の手順を確立できます。
- 食事前後の変化: 食後に極端に血圧が下がる「食事性低血圧」を起こしやすい利用者様の場合、食後の離床やトイレ誘導のタイミングを調整する必要があります。
血圧を単なる数値として記録するのではなく、「その人の生活の中でどう変化するのか」を継続的に記録していくことで、利用者一人ひとりの“いつもの状態”が共有できるようになります。
こうした記録の積み重ねは、事故や体調悪化の予防につながるだけでなく、職員間の判断のばらつきを減らし、ケアの質を安定させます。
数値の向こう側を読む!バイタルと「ケース記録」の相関関係
数値単体では「異常なし」に見えても、記録と照らし合わせることで「隠れたリスク」が浮かび上がることがあります。逆に、数値が異常を示していても、記録という背景があれば「静観で良い」という判断ができることもあります。
いくつかの具体的な事例(ケース)を見てみましょう。
事例A:「微熱がある」×「水分摂取量が減っている(記録)」
【状況】
バイタル測定で体温が37.2℃あった。咳や鼻水などの風邪症状は見られない。

【記録との紐づけ】
過去3日間の水分摂取記録を確認すると、普段は1日1200ml飲んでいるが、ここ数日は800ml程度に落ち込んでいることが判明。
【導き出される仮説】
「風邪」ではなく「脱水」による発熱(うつ熱)の可能性が高い。
【アクション】
解熱剤の使用や隔離対応ではなく、まずは経口補水液の提供や室温調整を行い、尿量や皮膚の状態を観察する。
事例B:「血圧が高い」×「昨夜眠れていない(記録)」
【状況】
普段130台の血圧が、今朝は160台まで上昇している。本人は「頭が痛いわけではない」と言う。

【記録との紐づけ】
夜勤者の記録を見ると、「2時に覚醒し、その後も居室で落ち着かない様子。入眠できず」との記述あり。また、最近ご家族の面会が減っているという背景情報も。
【導き出される仮説】
身体的な疾患による高血圧ではなく、睡眠不足や精神的な不安、ストレスが交感神経を刺激して一時的に血圧を上げている可能性。
【アクション】
すぐに受診や降圧剤の検討をするのではなく、まずは静かな環境で足浴を行ったり、傾聴の時間を設けたりして、リラックスを促してから再検する。
事例C:「脈が速い」×「排便がない(記録)」
【状況】
脈拍が普段70回/分程度だが、今日は90回/分以上あり、頻脈傾向。SpO2は正常。

【記録との紐づけ】
排便記録を確認すると、4日間排便がない。食事摂取量が少し落ちているという記録もある。
【導き出される仮説】
便秘による腹部の不快感や苦痛、あるいは腸閉塞(イレウス)の初期症状として、自律神経が反応し脈が速くなっている可能性。
【アクション】
腹部の触診や聴診を行い、医師の指示に基づき緩下剤の調整や摘便の検討を行う。
このように、数値は「結果」であり、その「原因」は日々の生活(記録)の中に隠れています。この2つを掛け合わせることで初めて、的確なケアの方針が見えてきます。
記録に残すべきは「数値」+「背景」
「数値と記録の統合」を実践するためには、数値の背景を残すことが重要です。
今後システムやAIが進化しても、入力されるデータが「140/80」だけでは、AIも「少し高めです」としか分析できません。
しかし、そこに背景情報があれば、AIは高度な推論をサポートしてくれます。
【改善前の記録例】
- 10:00 バイタル測定。BP 148/85、P 82、KT 36.8。変わりなし。
これでは、後から振り返った時に「なぜ血圧が高かったのか」が分かりません。
【改善後の記録例(質の高い記録)】
- 10:00 バイタル測定。BP 148/85、P 82、KT 36.8。
(背景)トイレ歩行直後に測定。少し息切れあり。
(本人の訴え)「少し動くと疲れるね」との発言あり。
(対応)10分間ベッドで休憩後に再検し、132/78まで下降を確認。顔色は良い。
このように、「測定時の状況(直前の動作)」「本人の主観的な訴え」「再検の結果」をセットで記録することで、情報の価値は何倍にも向上します。
これが、チーム全体で「その人の基準値」を共有するための資産となるのです。
バイタルの「推移」を可視化してチームケアに活かす
人間の記憶は曖昧なものです。「最近なんとなく元気がない」という感覚も大切ですが、チームでケアを行う以上、客観的な根拠が必要です。
そこで重要になるのが、バイタルデータを「点」ではなく「線」で見ること、すなわち推移の可視化です。
「点」ではなく「線」で見ることの効果
毎日の数値をグラフにプロットしていくと、日々の小さな変化の中にある「傾向」に気づくことができます。例えば、体重減少。
毎日見ていると気づきにくい「1ヶ月で1kgの減少」も、半年間のグラフで見れば「6kgの減少」という明らかな異常として認識できます。
血圧であれば、「緩やかな上昇傾向」が見えた場合、季節の変わり目(寒暖差)によるものなのか、腎機能の低下によるものなのか、あるいは服用している薬の効果が薄れてきているのか、といった検討材料になります。
また、医師や看護師への申し送りにおいても、「最近血圧が高いです」と口頭で伝えるより、「過去2週間の推移グラフですが、夕方の数値だけが徐々に上がっています」とデータを提示するほうが、圧倒的に説得力が増します。医師もそのデータを基に「では夕食後の薬を変更してみよう」といった的確な医療処置判断を下しやすくなります。
気づきを共有し、アクションにつなげる
データの可視化は、経験の浅いスタッフの教育にも役立ちます。
ベテランスタッフは経験則(暗黙知)で「この利用者さんは冬場に血圧が上がる」と知っていますが、新人には分かりません。しかし、過去のグラフ(形式知)があれば、新人もベテランと同じ視点でリスクを予見できます。
アナログ管理の限界と、システム化による「気づき」の最大化
ここまで「数値と記録の統合」や「推移の可視化」の重要性を述べてきましたが、これを紙の記録だけで実践するには限界があります。
紙の記録では見えない「相関関係」
紙でアナログ管理する場合は以下のようになります。
- バイタルは「バイタル表(グラフ用紙)」に手書き。
- 日々の様子は「ケース記録簿」に手書き。
- 食事や排泄はまた別の「チェック表」に記入。
これでは、情報は物理的に分断されていて、「血圧が高い日」に「どんな排泄があったか」を確認するには、分厚いファイルを2冊引っ張り出して、日付を照らし合わせながらページをめくらなければなりません。
忙しい現場で、そこまで時間をかけて分析することは現実的に困難です。その結果、せっかく記録した情報が活用されず、「書きっぱなし」の情報になってしまいます。
ICT(ケア記録システム)で実現する「未来の予測」
ここで力を発揮するのが、介護記録システム(ICT)です。
弊社が提供するケアコラボでは、PC/スマートフォンで入力したバイタル、食事、排泄、ケア記録が、即座に一元管理されます。
画面上で「食事のグラフ」と「排泄のグラフ」を比較し、相関関係を一目で確認する。
ICTを活用することで、スタッフは「情報の検索・集計」という事務作業から解放され、「情報の解釈・利用者との対話」という、人間にしかできない付加価値の高い業務に集中できるようになります。
チーム全体でご利用者の「生活リズム」をリアルタイムに共有することで、「何かあってから対応する(事後対応)」ケアから、「データに基づいてリスクを予見し、未然に防ぐ(予防的ケア)」へとシフトしていく。これこそが、ケアの質をさらに高める第一歩になるかもしれません。
まとめ
バイタルチェックは、測定して基準値内であることを確認して終わり、ではありません。
測定はあくまでスタートラインであり、ゴールは「その数値を解釈し、利用者様の生活をより良くするためのケアにつなげること」です。
- 教科書的な基準値ではなく、「その人の基準値」を見る。
- 「数値」と「日々の記録(文脈)」をセットで読み解く。
- データを「線」で可視化し、チームで共有する。
これらの視点を持ちつつ、その気づきをICTなどのツールを用いて効率的に共有・分析することで、ケアの質は個人の勘や経験頼みから、確かな根拠(エビデンス)に基づいたチームケアへと進化します。
「ケアコラボ」では、バイタルデータとケア記録をシームレスに連携させ、利用者様一人ひとりの生活リズムを可視化する仕組みを提供しています。 もし、現場での情報共有に課題を感じていたり、もっとデータを活かした根拠あるケアを実現したいとお考えでしたら、ぜひ一度ケアコラボまでお問い合わせください。
