シリーズケアコラボの視点
介護人材の採用強化と定着に効果あり
介護記録の活用で得られる3つの成果
介護記録をしまったままにせず、職員同士はもちろん、医療・看護などの他職種やご家族と介護記録を共有することで大きな成果が得られます。本記事では実践者の事例を参考にしながら、介護記録を活用することで得られる成果を全3回に分けて学びます。3回目の本記事では、介護記録をICT化することによる介護人材の採用の強化と定着について見ていきます。
採用応募者の気持ち
まずはこのデータを見てください。ケアコラボ社で東京福祉専門学校にて介護記録のICT化に関する講義を行った後に採ったアンケートの結果です。
25名の学生全員が介護記録がICT化された法人に就職したいと回答をしました。2018年時点のスマートフォン普及率を見てみると、20代では98%、50代でも80%を超える時代です。日常生活のICT化と同じような感覚で働ける職場環境を作らないと、無駄が多すぎる現場に愛想を尽かされてしまいかねません。
こちらはとある法人様で、採用応募書類の志望動機に書かれていた内容です。ICTを活用した働き方改革を進めていることに共感して応募を決めてくれたそうです。介護記録のICT化は業務の生産性向上に加えて、法人の魅力向上にもつながる一石二鳥な施策なのです。
働き方の魅力は、現職の職員たちにとっては他の法人に移りたくない動機にもなります。ICT化された職場でのメリットを一度体感してしまうと、そうではない職場に戻りたくなくなります。先日、大学生に対して行った講義のアンケートでも「自分が就職する特養は紙での記録をしていて、今日のお話を聞いて今から不安になっています」と書いてくれた方がいました。
介護人材の定着率にこそ注目を
ICT化は、組織として働き方の見直しに取り組んでいる一つの証左となります。HELPMAN JAPANさんが実施したアンケートでも、ICT化を進めている法人においては離職率の低下が有意に見られたそうです。
では、なぜ介護記録がICT化されることが人材の定着率の向上に影響があるのでしょうか。先程の論文から再度、アンケート結果の考察を引用します。
経験年数が多くなるにつれ、自分自身の介護実践への直接的な利用者のリアクションからばかりで なく、利用者の身体・精神状況の向上や、利用者家族も介護福祉利用者と捉え、自己の介護実践により良好な介護福祉関係が構築できることが仕事の喜びや充実感に影響を及ぼすという結果が示された。
介護職としての経験を重ねると、利用者からのリアクション以外にも視野が広がり始め、利用者の状況変化や家族との関係性構築に興味が及びます。介護記録を活用すればその興味の応える情報や機会が提供できます。そしてICT化は介護記録活用の非常に有効な手段であることはこれまで述べてきた通りです。
別の視点として、介護記録のICT化は若手の職員にとっては活躍の場が広がる契機になります。こちらは前述の元気の里とかち様から頂いたコメントです。
ベテランの介護士に比べ、若い介護士たちは介護の技術という面ではまだ未熟な部分が目立ちますが、ICTのリテラシーはむしろ進んでいます。いつもは指導を受けている立場なのに、ケアコラボに関しては逆にベテラン職員に操作を教える状況が発生します。
また、私たちの施設が北海道で最初にケアコラボを入れたので、他の法人さんたちが視察にきてくれるのですが、先日は21歳の職員がパワーポイントで説明資料を作り、きちんとプレゼンしてくれました。
活躍の場を提供しないことが離職に繋がると考えていますので、ケアコラボは若い職員が自分を活かせる場にもなっているし、自分たちで工夫して記録していく喜びがあるのがいいですね。
社会福祉法人 元気の里とかち様@北海道
導入事例記事はこちら
マズローの欲求段階説で「承認欲求」が定義されていることは広く知られています。他者から頼られ、役に立っているという感情はモチベーションを高める上でとても重要です。しかし若手の職員にとって、百戦錬磨の先輩方がいる職場において頼られる存在になるのは非常に時間がかかります。ICT化によって若手活躍の場ができることは嬉しい副産物と言えるでしょう。
採用強化と人材の定着率には相関がある
前提として、地域密着で事業を営む介護事業所では、既存職員からの紹介をきっかけに入職されるケースが多いのが実情です。(公財)介護労働安定センターの「平成25年度 介護労働実態調査」によれば、介護従事者が現在働いている法人を選択したきっかけとして、「友人・知人からの紹介」が32.9%と最も多くなっています。
以前、私が参加させていただいた日本介護経営学会学術大会の第15回にて、ビジネス・ブレークスルー大学院の菅野 雅子氏が発表された研究内容で、非常に興味深いデータが示されました。
直近の採用に置いて、人材の量・質ともに確保できた事業所では、採用活動の工夫は特に行っておらず、職員の定着率との強い関連が見えたそうです。介護人材確保のためには、魅力ある職場環境を作ることが重要であることが示唆されたと結論付けられています。
詳しくは下記の記事を参照していただければと思いますが、介護業界全体で人材不足が叫ばれる昨今においては、限られた人材を競い合うのではなく、職場の働きやすさと働きがいを実現して介護業界以外への人材転出を防ぐべきと考えます。
「復職」は介護人材不足の処方箋になるか──データで見る復職者の実態
https://rc.persol-group.co.jp/column-report/201905170001.html
頻繁に職員が入れ替わってしまう職場は、利用者にとっても残された職員にとっても辛いことばかりです。ベテランの職員でサービスを提供できているチームと、毎月のように人が入れ替わっていて、気づけば1年経つと全員が入れ替わってしまっているようなチームでは、頭数だけ見れば同じでも、提供サービスの質や職員の負担には歴然とした差があると思います。
現場の働きやすさを実現して定着率を上げることは、確実に経営の安定とケアの質向上に繋がります。
まとめ
介護記録を活用したり、ICT化することにより得られる成果について、全3回に分けてご説明いたしました。
- ケアの標準化と他職種とのスムーズな連携
- ご家族との信頼関係構築
- 介護人材の採用強化と定着率の向上
それぞれについてもっと詳しくお聞きになりたい方は、お気軽にご相談ください。