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ケアコラボの視点

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「記録」を「組織の資産」に変える介護記録の書き方とは|ICT時代の新しい記録術

楠本 純平 楠本 純平

「日々の業務に追われて、記録を書く時間が足りない」
「『特変なし』ばかりで、何を書けばいいかわからない」
「実地指導のためだけに書いている気がする……」
「自分の書いた記録が、本当に役に立っているのか不安」

介護・福祉の現場で働く皆様にとって、介護記録(ケア記録)は大きな課題の一つではないでしょうか。身体的なケアだけでも多忙な中で、事務作業に多くの時間を割くことは容易ではありません。

しかし、ご利用者のQOLを高める大切な情報源です。

デジタル化が進む今、記録は単なる「業務報告」から「チームの資産」へと進化させるべきフェーズに来ています。

本記事では、介護記録システム・介護アプリ「ケアコラボ」を手掛けるケアコラボスタッフが、多くの福祉事業所様へシステムを提供する中で培った知見をもとに、「記録の書き方の一般論」から、「記録を資産に変えるための考え方(DIKWモデル)」、そして明日から使える「4つのステップ」まで、網羅的に解説します。

新人職員様の研修資料として、またリーダー層の業務改善のヒントとして、ぜひご活用ください。

1. 【基礎編】なぜ、介護記録が必要なのか?

まずは基本の確認です。「なぜ書くのか」という目的がなければ、記録はただの作業になってしまいます。

なぜ介護記録が必要なのか

① ご利用者の状態把握とケアの質の向上

記録は、ご利用者の「今」を知るための貴重な情報源です。

人間の記憶は曖昧です。「最近なんとなく元気がない」という感覚だけでは、医療連携も家族への説明もできません。「いつから」「どのように」「何回」変化があったのか。
記録という「確かな情報源」を活用することで、初めて科学的なケアが可能になります。

② チーム間の情報共有

介護は24時間365日のチームプレーです。

ある職員が気づいた「A様は右足が痛そうだった」という情報を記録に残さなければ、次のシフトの職員は無理に歩行介助をしてしまい、事故につながるかもしれません。

記録は、「時間を超えてケアを繋ぐ手段」でもあります。

③ 法的根拠と説明責任

万が一の事故やトラブル、あるいはご家族からの問い合わせが発生した際、「いつ、誰が、どのような判断で、どんなケアを行ったか」を証明できるのは記録だけです。

介護記録の保存期間と法的リスク

介護保険法等の法令により、介護記録の保存は義務付けられています。

  • 厚生労働省令(基準省令): サービス完結の日から2年間
  • 各自治体の条例: 多くの場合、独自に5年間と定めています(※ 必ず事業所所在地の条例を確認してください)

裁判事例においても、「記録がない=ケアを行っていない」とみなされることがあります。
逆に、詳細な記録が残っていれば、それが「適切なケアを尽くした」という証拠になり、業務が適正に行われたことの証明となります。

2. 【実践編】「伝わる記録」の基本的な考え方

では、具体的にどう書けばよいのでしょうか。
わかりやすい記録には、共通の「考え方」があります。

その1:5W1Hの活用

5W1Hは基本ですが、汎用性が高く効果的な分類方法です。

要素意味記録のポイント
Whenいつ「朝」「後で」などの曖昧な表現は避け、「9:30」「食後30分後」など具体的に。
Whereどこで「居室」「トイレ」「食堂の南側窓際」など。場所によってリスクが異なります。
Who誰が主語を明確に。「ご利用者が」したのか、「職員が」したのか。
What何を起きた事実。「転倒した」「摂取した」「発言した」。
Whyなぜ推定される原因。「床が濡れていたため」「体調不良の訴えあり」。
Howどのように状態や手段。「手すりを持って」「自力で」。

その2:「事実」と「解釈」を分ける

「事実」と「解釈」を分ける。実は意識しなければ難しい重要なポイントです。

記録では事実と解釈を使い分ける
  • 事実(客観的データ): 誰が見ても変わらないこと。
    • 数値(体温、摂取量)、発言内容(「痛い」と言った)、具体的な行動。
  • 解釈(主観的判断): 記録者がどう感じたか、どう考えたか。
    • 「辛そうだった」「機嫌が悪かった」「認知症が進んだ気がする」。

【悪い例】

A様、今日はご機嫌ななめで、食事もあまり食べなかった。

【良い例(事実と解釈の分離)】

(事実) 朝食時、眉間にシワを寄せ、食器を押し返す動作あり。摂取量は主食2割、副食0割。「いらない」との発言あり。

(解釈) 表情や動作から、空腹感がない、あるいは体調不良の可能性があると推測される。


このように書き分けることで、読む人は「なるほど、食器を押し返したという事実があるなら、確かに体調不良かもしれない」と、判断の妥当性を検証できます。

場合によっては事実のみ記載し、解釈を記載しないケースもあります。

その3:曖昧表現を避ける

曖昧表現は、人によって受け取り方が異なるため、極力避けましょう。

表現例)

「少し」「ちょっと」具体的に「3口」「5分間」「30ml」と書く。
「いつも通り」何がいつも通りなのか?
「完食し、食後の服薬もスムーズ」「独語なく穏やか」など具体的に。
「頻回に」「1時間に4回」「5分おきに」と書く。
「〜と思われる」の多用根拠がない推測は混乱を招きます。
なるべく根拠(事実)とセットで書きましょう。

3. 【概念編】記録を「資産」にする考え方「DIKWモデル」

記録を正確に書くことは大切です。
その上で、ICTを活用すれば記録をもっと有効活用できます。記録がどのようにして「価値ある資産」へと変わっていくのか、その全体像を「DIKWモデル」という概念を使って解説します。

DIKWモデル

データが知恵に変わるプロセス

DIKWとは、以下の4つの頭文字をとったものです。データから知恵に変換されるにつれて価値が高まり「資産」となっていきます。

Data(データ):事実の断片

  • 「37.5℃」「食事5割」「夜間3回覚醒」
  • これらは単なる数値や事象であり、まだ意味を持っていません。

Information(情報):整理されたデータ

  • 「平熱より高い」「いつもより食べていない」「最近、夜起きることが増えた」
  • →データに文脈が加わり、意味を持ちます。

Knowledge(知識):法則や傾向の発見

  • 「A様は季節の変わり目に体調を崩しやすい」
  • 「昼間の活動量が少ない日は、夜間覚醒が増える傾向がある」
  • →情報を蓄積・分析することで見えてくる「その人固有の傾向」です。

Wisdom(知恵):解決策・より良いケア

  • 「昼間は散歩に誘って日光を浴びてもらう」
  • 「就寝前の水分量を調整する」
  • →知識を活かした、具体的な「未来へのアクション」です。

上記のように「記録の資産化」とは、日々の記録(Data/Info)をチームで共有・蓄積し、そこから知識や知恵(Knowledge/Wisdom)を生み出し続けることを指します。


ストーリーによる例:田中様の睡眠障害が改善するまで

特別養護老人ホームのご利用者の例です。

  • 【Step 1:データの蓄積】
    • 新人職員Cさんは、田中様の夜間記録を毎日正確につけていました。「1:00覚醒」「3:00トイレ」「5:00覚醒」。
  • 【Step 2:情報への変換】
    • 1ヶ月後、記録システムのグラフ機能を見たリーダーが気づきました。「田中様、ここ2週間、明け方の覚醒が明らかに増えている」。
  • 【Step 3:知識の発見】
    • チームカンファレンスで話し合いました。日中の記録と突き合わせると、「昼食後のレクリエーションに参加しなかった日は、夜間の覚醒が多い」という傾向が見つかりました。さらに、「参加しない日は、空調が効きすぎて寒いと訴えていることが多い」という過去の記録も見つかりました。
  • 【Step 4:知恵の実践】
    • チームは対策を立てました。
      • レクの時間は田中様にひざ掛けを用意し、参加を促す。
      • 日中の活動量を確保し、適度な疲労感で夜間の良眠を誘う。

▶︎ Step1〜4の結果、田中様の夜間覚醒は減り、日中の笑顔も増えました。

もし、記録が「書きっぱなし」だったら、この傾向には気づけなかったかもしれません。
このように記録は「資産」として活用することができます。

4. 【方法論】個人レベルで実践する「4つのステップ」

前章では、記録が資産になる全体像(概念)をお伝えしました。では、現場スタッフ一人ひとりは、日々の業務で具体的にどう動けば良いのでしょうか?

知識知恵を生み出すための「良質な素材(データ/情報)」を集め、残すための具体的な方法論として効果的な「4つのステップ」をご紹介いたします。

① 収集:アンテナを立てる

記録を資産にする4つのステップ-ステップ1

心理学に「カクテルパーティー効果」という言葉があります。
これは、「騒がしいパーティー会場でも、自分の名前や興味のある話題は自然と耳に入ってくる」という現象のことです。

逆に言えば、人間は「意識した情報しかキャッチできない」という特性を持っています。
そのため、漫然と見るのではなく「アンテナ」を立てることが重要です。
このアンテナには2つの種類があります。

1. 仮説:アセスメントなどをもとに「仮説」を立てる

「事前情報」を使って、これから起きることを予測するアンテナです。
アセスメントシート、フェイスシート、過去の記録などを手がかりにします。

  • 「新しい薬に変わったばかりだから、副作用のふらつきが出るかもしれない
  • 「元大工さんだから、日曜大工のレクなら興味を持つかもしれない
  • 「今日はご家族の面会日だから、夕方は寂しくて不穏になるかもしれない

2. 観察:仮説をもとに「観察」をする

立てた仮説を持って、ご利用者の元へ向かいます。
「今、目の前で何が起きているか」を五感を研ぎ澄ませてキャッチするアンテナです。

  • 視覚: 顔色、歩き方、皮膚の赤み、食べ残しの量
  • 聴覚: 呼吸音、声のトーン、独語の内容
  • 嗅覚・触覚: 便臭の変化、皮膚の熱感

漫然と見るのではなく、「仮説」でアンテナをたて、「観察」で深掘りする。
この2つのアンテナを組み合わせることで、情報収集の質は劇的に向上します。

② 整理:得られた情報を分類して理解する

記録を資産にする4つのステップ-ステップ2

集めた情報をただ羅列するだけでは、次の「考察」につながりません。ここで適切に分類・整理することが、論理的な記録への第一歩です。

1. まずは「事実」と「解釈」の2つに分ける

何よりも重要なのは、集めた情報を「事実(客観)」と「解釈(主観)」の2つに明確に分けることです。

  • 事実: 誰が見ても変わらない出来事。(例:食事を3割残した)
  • 解釈: あなたが感じたことや推測。(例:食欲がなさそうだ)

これらを混ぜて書くと、読み手は「本当に起きたこと」と「書き手の感想」の区別がつかなくなります。まずはこの2つに仕分けることを徹底しましょう。

2. 解釈を深める「3つのヒント」

「解釈」を行う際、「どう解釈すればいいかわからない」「いつも同じような感想になってしまう」という場合は、以下の3つの観点を思考のヒントとして使って見てください。

  • 身体面: 体調、バイタル、痛み、薬の影響など。(例:熱があるから元気がないのか?)
  • 心理面: 表情、発言、気分の変化、意欲など。(例:失敗して落ち込んでいるのか?)
  • 社会/環境面: 過去の職歴、家族関係、人間関係、周囲の環境、役割など。

この観点という「レンズ」を通すことで、一つの事実からより多角的で深い解釈(要因・背景)を引き出すことができます。

③ 考察:事実関係を整理する

記録を資産にする4つのステップ-ステップ3

ここまでのステップで得られた情報を使って、最終的なアウトプット(記録)の形へと考えをまとめます。現時点でどう捉え、どう動いたかを論理的に残すために、「事実・要因・判断」の3ステップで整理します。

  1. 事実(What):
    1. 「何が起きたか?」(例:お茶をこぼした)
  2. 要因・背景(Why):
    1. 「なぜそれが起きたと考えられるか?」
      (例:【身体面】薬の効果切れの時間帯であり【心理面】ご本人の「自分でやりたい」意向も強いため)
  3. 判断・対応(Next)
    1. 「その結果、どうしたか?」
      (例:全介助にはせず、見守り対応とした。ケアマネジャーに報告した。等)

④ 共有:コンテキスト(文脈)を調整する

記録を資産にする4つのステップ-ステップ4

記録は「誰が読むか」によって、最適な表現(コンテキスト)が変わります。相手に合わせて情報を「翻訳」して届けることが、真の共有です。

1. 専門職間(医師・看護師・ケアマネ)への共有

  • 目的: 正確な状況伝達と、迅速な判断・連携。
  • ポイント: 専門用語を使い、データを重視し、簡潔に。
  • 例: 「下腿に圧痕性浮腫あり(+)。SPO2 94%にて訪看へ報告。」

2. ご家族への共有

  • 目的: 安心感の提供と、信頼関係の構築。
  • ポイント: 専門用語を避け、日常の言葉に翻訳する。ネガティブな情報も「生活の様子」として前向きに伝える。
  • 例:
    • 「不穏」 → 「少し落ち着かないご様子でした」
    • 「徘徊」 → 「熱心にフロアを歩かれ、運動されていました」
    • 「拒否」 → 「今は気が乗らないご様子でした」
    • 「全量摂取」 → 「美味しそうに完食されました」

「安心」と「生活の姿」を伝えることを意識しましょう。
「食事を食べました」という事実だけでなく、「お食事の際、隣の席の方と笑顔でお話しされ、楽しそうに召し上がりました」と書くだけで、ご家族が受け取るイメージは大きく変わります。

記録を資産にする4つのステップ

5. 【事例編】「4つのステップ」で変わる記録(Before/After)

それでは、「4つのステップ」を活用することで、記録がどのように変化するのか、具体的な3つのケースで比較してみましょう。

思考のプロセスだけでなく、最終的にアウトプットされる「記録文章」の変化に注目してください。

ケース1:食事摂取(拒否がある場合)

【Before:活用前】

昼食時、あまり食欲がない様子。声かけして少し食べてもらった。

問題点: 「食欲がない」は主観。「少し」が不明確。これでは次の対応策が見えません。

【プロセス:4つのステップで思考と記録を深める】

ステップ思考・アクションの内容
① 収集立てた仮説
アセスメント情報「先週、義歯を新調した」から、「もしかして痛みがあるのではないか?」と仮説を立てる

観察したこと
・箸が進まない様子。
・眉間にしわを寄せている(表情)。
・義歯を指差して外したがる仕草。
・「痛いですか?」の問いに頷いた。
・口腔内を確認したところ、左下歯茎に軽度の発赤を確認した。
② 整理● 事実(客観)
・開口が悪い
・主食摂取量3割
・眉間にしわ
・義歯を外したがる
・口腔内に発赤あり

▲ 解釈(主観)
(身体面・心理面)痛みにより不快感を感じている。食欲不振の原因は義歯ではないか。
③ 考察● 事実(What)
義歯を外したがる仕草と、口腔内に発赤があること。

▲ 要因・背景(Why)
義歯は新調直後であり、発赤もあるため、不適合による疼痛が起きている可能性が高い。

▲ 判断・対応(Next)
不適合が食欲不振の原因と推測されるため、本日は義歯を外してミキサー食で対応し、歯科受診を検討すべきである。

④ 共有:コンテキスト(文脈)を調整する

相手内容・記録例
スタッフ・専門職へ
(正確性・論理性重視)
12:15 昼食介助
● 主食3割、副食0割。お茶ゼリーは全量召し上がる。
● 食事開始直後から眉間にしわを寄せ、義歯を指差して外したがる仕草が見られた。
● 「痛いですか?」の問いに頷きあり。口腔内を確認したところ、左下歯茎に軽度の発赤を確認した。
▲ 義歯新調による不適合の疼痛が食欲不振の原因と推測されるため、本日は義歯を外し、ミキサー食をご提供した。
ご家族へ
(安心感・わかりやすさ重視)
● 今日はお食事が少し進まないご様子でした。
▲ 表情を拝見すると、入れ歯が当たって少し痛みがあるのかもしれません。
▲ ご無理のない範囲で召し上がっていただきましたが、念のため歯科の先生に診ていただくよう手配いたしました。

ケース2:日中の過ごし方(意欲低下・役割創出)

【Before:活用前】

日中はホールでテレビを見て過ごされる。声かけへの反応は薄く、特変なし。

問題点: 「特変なし」で片付けられ、活力低下のリスクが見過ごされています。

【プロセス:4つのステップで思考と記録を深める】

ステップ思考・アクションの内容
① 収集立てた仮説
フェイスシートの「元庭師」という情報から「庭木が気になっているのではないか?」と仮説を立てる。

観察したこと
・テレビは見ず、窓の外(庭の木)をじっと見ている。
・園芸作業をお願いすると、手際よく作業された。
・「ここはもっと間引かないとダメだ」と発言があった。
・終了後、「久しぶりに土を触った」と笑顔が見られた。
② 整理● 事実(客観)
・窓の外を凝視
・手際よい作業
・指導的発言
・笑顔

▲ 解釈(主観)
(社会/環境面)元庭師としての経験から、庭の木が気になっている。
(心理面)ただゆっくりしていたい訳ではなく、役割があると意欲が出る。
③ 考察● 事実(What)
庭の剪定作業を身を乗り出して見ており、実際の作業も手際が良かった。

▲ 要因・背景(Why)
元庭師という得意分野(社会面)であれば意欲が湧き、役割創出につながる。

▲ 判断・対応(Next)
今後も施設の花壇の手入れをお願いし、日中の活動(役割)として定着させるべきだ。

④ 共有:コンテキスト(文脈)を調整する

相手内容・記録例
スタッフ・専門職へ
(正確性・論理性重視)
14:00 談話室にて
● 窓際で庭の木をじっと眺めておられたため、元庭師の経歴を踏まえ「お花の手入れを手伝っていただけませんか?」と相談。「しょうがないな」と笑顔で承諾され、花壇の草取りと花がら摘みを実施。
● 開始直後から手際よく作業され、「ここはもっと間引かないとダメだ」と職員へ指導される場面も。
● 30分間集中して作業され、終了後は「久しぶりに土を触った」と満足気な表情で水分摂取された。
▲ 元庭師としての役割意識が刺激され、意欲向上につながったと思われる。 今後も日中の活動として園芸への参加を促していく。
ご家族へ
(その人らしさ重視)
● 今日、お庭を眺めていらしたので、花壇の手入れをお願いしたところ、『しょうがないな』と笑顔で引き受けてくださいました。
● さすがの手際で、私たち職員にも剪定のコツを教えてくださり、昔の腕前を披露してくださいました。
▲ 作業後の満足そうな表情がとても印象的でした。

ケース3:認知症ケア(不穏時)

【Before:活用前】

夕方から帰宅願望あり。不穏で興奮していた。説得して落ち着いてもらった。

問題点: 「不穏」という言葉で片付けており、ご利用者の感情や背景が見えません。「説得」という対応も適切か検証できません。

【プロセス:4つのステップで思考と記録を深める】

ステップ思考・アクションの内容
① 収集立てた仮説
「元会社員」という情報から、「退勤時間の習慣が出ているのではないか?」と仮説を立てる。

観察したこと
・夕方16:30、ソワソワして玄関へ向かう。
・「もうバスが来る時間だ、帰らないと」と強い口調で発言。
・制止しようとすると声を荒らげる。
・仕事の話を傾聴すると、表情が和らぎ笑顔になった。
② 整理● 事実(客観)
・「バスが来る」との発言
・玄関へ向かう行動
・制止への抵抗
・笑顔への変化。

▲ 解釈(主観)
(社会/環境面)過去の職歴や退勤の習慣から、帰ろうとしている。
(心理面)焦燥感や役割喪失感があるが、話を聞いてもらうことで安堵し、自尊心が回復した。
③ 考察● 事実(What)
「バスが来る」と強い口調で発言し、制止すると興奮した。

▲ 要因・背景(Why)
過去の傾向からも、否定すると興奮が増す。背景には長年の退勤習慣がある。

▲ 判断・対応(Next)
「否定(説得)」ではなく「傾聴(仕事の労い)」で対応し、安心感を与えるべきである。

④ 共有:コンテキスト(文脈)を調整する

相手内容・記録例
スタッフ・専門職へ
(正確性・論理性重視)
16:30 玄関ホールにて
● 落ち着かない様子で玄関へ向かわれ、「もうバスが来る時間だ、帰らないと」と強い口調で訴えあり(帰宅願望)。
● 表情は険しく、制止しようとすると声を荒らげる場面あり。

▲ 退勤時間の習慣によるものと推測し、帰宅を否定せず「お仕事お疲れ様でした。バスまで時間がありますから、一服しましょう」と声かけを行い、談話スペースへお連れする。
● 現役時代の仕事の苦労話などを傾聴したところ、徐々に表情が和らぎ、笑顔が見られるようになる。
●  17:00には落ち着いてお茶とお菓子を全て召し上がる。夕食誘導もスムーズに行えた。
▲ 夕方の不穏時は、説得よりも「仕事の労い」が有効であると思われる。
ご家族へ
(安心感重視)
● 夕方、少し落ち着かないご様子が見られましたが、昔のお仕事のお話を伺うと、熱心に語ってくださいました。
● 特に○○のプロジェクトのお話は興味深く、他の方とも会話が弾んで、皆様と和やかにお茶を楽しまれました。
▲ お仕事のお話をされる時の○○様はとても頼もしいお顔をされています。

6. 【環境編】ICT活用で変わる記録の未来

最後に、ツール(環境)の話に触れたいと思います。

「フロー型」から「ストック型」へ

LINEのようなチャットツールは便利ですが、情報は時系列でどんどん流れていってしまいます。
これを「フロー型」の記録と言います。
リアルタイムのやり取りにおいては便利ですが、後から「あの件どうなった?」と振り返るのが困難です。

記録を資産にするには、利用者ごと、あるいは出来事ごとに情報がまとまる「スレッド形式(ストック型)」が最適です。

例えば、「転倒事故」という1つの記事に対し、その後の経過観察、対応策の評価、家族への報告などがぶら下がって蓄積される仕組み。これなら、経緯が一目瞭然です。

弊社が提供する「ケアコラボ」では記録はご利用者ごと、かつ出来事(スレッド)ごとに整理されます。

文字情報の限界を超える(画像・動画)

「百聞は一見にしかず」です。

  • 皮膚トラブル(発赤・褥瘡)の経過
  • リハビリでの歩行状態の変化
  • レクリエーションで見せた最高の笑顔

これらを文章だけで正確に伝えるには、高度な文章力と時間が必要です。しかし、写真や動画なら一瞬です。

「文章で書くより、1枚の写真を撮る」。これもまた、ICT時代の賢い記録術であり、立派な資産形成となります。

まとめ:あなたの1行が、未来のケアを支える

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

あなたの書くその文章が、利用者の生活を支え、チームの連携を促進し、より良いケア(知恵)を生み出す種になります。

「正確に書く」という基本を押さえつつ、「4つのステップ」と「ICT」を活用して、記録を組織の「資産」へと育てていきませんか。

弊社の「ケアコラボ」は、まさにこうした「記録の資産化」を現場の負担なく実現するために設計されたシステムです。

  • 気づいたことはメモ機能ですぐに残し(収集)、
  • 情報はご利用者ページに一元化され、ストック型のタイムラインで整理されるため、いつでも過去の経緯を簡単に振り返ることができます(整理・考察)。
  • 画像や動画を使えば、文章化の負担を減らしつつリッチな情報を残せますし、
  • 記録に対してスタッフやご家族が反応できるフィードバックの仕組みがあるため、見られている意識とモチベーションが生まれ、自ずと記録の質が高まっていきます(共有)。

もし、「記録業務を変えたい」「もっと活きた記録を残したい」とお考えでしたら、ぜひ一度お問い合わせください。

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楠本 純平

楠本 純平

ケアコラボでは、インサイドセールス、プロダクトオーナー、企画など、幅広い役割を経験。 現在は「何でも屋」として、福祉の現場で日々奮闘されるユーザーの皆さまが「ケアコラボを使ってよかった」と感じていただける瞬間を少しでも増やすため、さまざまな領域に関わっています。 志高く、あたたかなケアコラボユーザーの皆さまから学ばせていただくことも多く、日々刺激と気づきをもらっています。

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